良明の家

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 その日のゆみは、長い髪に茶の花柄のカチ
ューシャを付けていた。前に、兄とマンハッ
タンに行ったときに、兄がお店で見つけて買
ってくれたお気に入りのものだった。

「だってお友達だから」

 ゆみは、良明とお友達になれたかもってこ
とが嬉しくて言っただけなのに、ゆみに片思
い中のヒデキには、それが良明への嫉妬につ
ながってしまっていた。

「何、お前もゆみちゃんのこと好きなの?」

 ヒデキは、今日初めて会った良明に思わず
強い口調で聞いてしまった。
 ちなみに、ゆみは特にヒデキのことは何と
も思っていなかった。好きとか嫌いでもなく
ただの近所の、同じアパートメントの4階に
住んでいるお兄さん。
 お兄さんだったのが、飛び級で5年生にな
ったときに、同級生のお友達になった。
 どちらかというとヒデキよりも、ヒデキの
兄の明君やそのまた上の兄と姉の方が好きだ


った。ヒデキの一番上の姉には、隆がどうし
ても仕事で夜遅くなってしまうとき、ベビー
シッターでよく家に来てくれていた。

 ゆみはベビーでは無いけど、アメリカでは
親がどうしても外出してしまうとき子供だけ
家に残しておくのが不安なため、よく近所の
お兄さんお姉さんにバイトで来てもらって、
親が帰ってくるまでの間、子供と一緒にいて
もらっていた。そのことをベビーシッターと
呼んでいた。

「そういうわけじゃないよね」

 何も言わない良明に代わってゆみが返事し
た。

「でも、ゆみは、良明君と仲良くなりたいし
好きだけどね」

 ゆみは日本からやって来て、せっかく同じ
クラスメートになった良明と仲良くなりたい
という軽い気持ちで言っただけだったのだが
その言葉がヒデキの胸に刺さっていた。


「え、好きなの?」

 その言葉にヒデキは、ちょっとドキドキし
ながら聞き返した。

「お前も好きだから、さっきからずっとゆみ
ちゃんの手をつないでいるのか?」

 ヒデキが良明に聞いた。

 さっき、ゆみが散歩に行こうって良明を誘
ったとき、ゆみが良明の手を引いて誘ったか

ら、散歩中ずっと良明と手をつないでいたの
をヒデキは完全に誤解してしまっていた。
 ゆみが散歩に誘い、ゆみが良明の手を引い
て歩き回っていたので、どちらかというと手
をつないでいたのは、良明でなくゆみの方だ
った。

 それを聞いてちょっと恥ずかしくなったの
か、良明はゆみの手を振りほどいた。
 そのときに良明の手がゆみの頭のカチュー
シャに当たってしまった。そして、カチュー
シャは、そのまま床に落ちて花柄の部分が外


れてしまっていた。

 ゆみは、慌てて床に落ちたカチューシャを
拾い上げた。が、カチューシャの上部に付い
ていた花柄の部分が取れてしまっていて、も
う一回くっつけようとしてもくっつきそうも
なかった。
 せっかく兄に買ってもらったカチューシャ
が壊れてしまったのを見て、急にゆみの目か
ら涙が少しこぼれてしまっていた。

 もちろん、ゆみはカチューシャが落ちたの

は別に良明のせいではないっていうのはわか
っていたし、それに良明に落とされたからと
いうわけで泣いたわけでは全然なかった。
 なのに、ヒデキは、勝手に良明が壊したか
らということにしてしまった。

「どうするんだよ。ゆみちゃん、泣いてしま
っただろうが」

 ヒデキは、半分嫉妬の意味も含んで良明の
ことを責めていた。


「ゆみちゃんに謝れよ」

 ヒデキは良明を責め続けていた。良明は、
黙ったまま何も言わない。それなので余計に
ヒデキは良明のことを悪者扱いして責め続け
ていた。

 それほど泣いていたわけでもないゆみが、
少しだけこぼれた涙を拭いてから、顔を上げ
てヒデキに言った。

「別に良明君のせいじゃないよ、あたしが泣

いたのは」

 ゆみは良明のことを弁護した。

「ただ、お兄ちゃんに買ってもらったカチュ
ーシャが壊れちゃって、ちょっとだけ涙が出
ただけなの。もうぜんぜん平気よ」

 でも、ヒデキは引かなかった。

「いや、良明が落としたことには変わりない
んだから、ぜったい良明に弁償してもらうべ

きだよ!」
「大丈夫よ」
「いや、良明の家に行って、お母さんに弁償
してもらうべきだ」

ヒデキは、ゆみに強く提案した。ゆみは、自
分よりも年上のヒデキにあんまり強く言われ
るので、その提案を断りきれなくなってしま
っていた。

「だって良明君の家、あたし知らないし」

 ゆみはヒデキに言った。

「ゆみちゃんと同じアパートメントだよ」

それに対しては椎名が答えた。

「同じアパートメント?ああ、岡島さんのと
ころの・・」

 椎名に言われて、今日初めて会ったヒデキ
も良明がどこの誰でどこに住んでいるか思い
当たったようだった。

「俺が案内してやる」

 ヒデキは、ゆみに言った。

「良明のお母さん」につづく