事件発生!

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 夏休みのディズニーワールドまでには、ま
だ少し時間があった。

 それまでに隆は、会社に働きに行き、ゆみ
だって、学校に授業を受けに、お勉強に行か
なくてはならなかった。

 ゆみは、学校に行き、午前中の授業が終わ
ってお昼になった。
 シャロルやマイケルに、新しく加わった転
校生のヨシュワキー君と一緒に食堂でランチ
タイムになった。

 ゆみやシャロルは、自分のバッグからラン
チを出してお昼ごはんにする。
 昨日、お弁当を持ってきていなかったヨシ
ュワキーも、今日は自分のお弁当をちゃんと
持ってきていることだろう・・・と、ゆみも
シャロルも思っていたのだったが、ヨシュワ
キーは、今日もバッグを膝に抱えたまま、ゆ
みの隣りの席に座っているだけだった。

「ヨシュワキー君のお弁当は?」

 ゆみはヨシュワキーに聞いた。昨日、ルビ


ン先生は一瞬でヨシュワキーが良明だと見抜
いてしまったが、ゆみたちの間では、まだ良
明はヨシュワキーのままなのだった。
 ヨシュワキーは、ゆみに聞かれたことには
何も反応がなく、黙ったまま座っていた。

「また忘れてしまったの?」

 ゆみはヨシュワキーに聞いた。

「ごめんね。あたしの日本語よくしゃべれな
いから、お弁当がいることよくわからなかっ

たんだよね」

 ゆみは、不思議に思いながらも、また今日
も自分の分のサンドウィッチを半分に割って
良明の前に置いてあげた。
 でも、その日も良明は、ゆみのあげたサン
ドウィッチには、一口も口をつけなかった。

 ゆみは、シャロルやマイケルと一緒にお弁
当を食べていた。
 マイケルは、お弁当を食べ終わると、食堂
の角からチェッカーのボードゲームを持って


きた。
 チェッカーというのは赤と黒のマスが付い
たボードゲームの上に置かれている赤と黒の
コマを進めて遊ぶゲームだ。
 学校の食堂には、何個かチェッカーやチェ
スのボードゲームが用意してあり、食事の終
わった生徒は自由に遊べる。
 チェッカーの横にチェスも置いてあるのだ
が、チェスよりもゲームの遊び方がシンプル
なチェッカーの方が圧倒的に生徒たちに人気
があった。
 シャロルは、マイケルの持ってきたチェッ

カーを机の上に広げて、マイケルとチェッカ
ーゲームをし始めた。
 ゆみは、しばらく二人がやっているゲーム
を眺めていたが、見ているだけに少しあきて
きた。

「サンドウィッチ食べないなら、バッグに閉
まっておいたら?」

 ゆみは、座ったままで、ゆみのあげたサン
ドウィッチをぜんぜん食べてもくれないヨシ
ュワキーに言った。


 ヨシュワキーは、そう言われてもぜんぜん
サンドウィッチを食べる様子もなかった。
 仕方ないので、ゆみはテーブルの上に置か
れているゆみのあげたサンドウィッチを袋に
包んで、ヨシュワキーのバッグの中に入れて
あげた。

「ね、ちょっとそこらへんをグルっと遊びに
行かない?」

 シャロルとマイケルはチェッカーに夢中に
なっているので、ゆみはヨシュワキーのこと

を誘ってみた。反応が無かったので、ゆみは
ヨシュワキーの手を引っ張ってみたら、ヨシ
ュワキーが立ち上がった。

「お散歩行く?」

 ゆみはヨシュワキーの顔を覗きこむと、な
んとなくヨシュワキーが頷いたような気がし
たので、一緒に散歩に行くことにした。

「あたし、ヨシュワキー君とちょっとお散歩
行ってくるね」


「行ってらしゃい。っていうか今日は水曜だ
し、午後は授業無いのだから、そのまま帰っ
てもいいんじゃない」
「そうか、そうだね」

 ゆみはチェッカーをやっているシャロルに
言われて頷いた。

「それじゃ、お先に」
「うん、バイバイ!シーユートモロー」

 ゆみはシャロルとバイバイして、ヨシュワ

キーと一緒に食堂の周りを散歩に行く。二人
が散歩していると、向こうから椎名とヒデキ
がやって来た。

「あれ、ゆみちゃん」

向こうからやって来た椎名とヒデキのうち、
ヒデキの方が嬉しそうに声をかけてきた。

「こんにちは」

 ゆみもヒデキに挨拶を返した。飛び級で本


当は、3年生なのに5年生のゆみにとっては
ヒデキも椎名も年上の目上の人だ。いちおう
挨拶を返したが、内心ちょっとヒデキと会う
のは面倒くさかった。
 なんかよくわからないけど、ヒデキってあ
たしに話しかけてくるとき、いろいろしつこ
い感じなのだ。

「転校生のヨシュワキー君なの。うちのクラ
スメートなんだ」

 ゆみは、良明のことを二人に紹介した。

「え、ゆみちゃんと同じクラスメートなの」

 ヒデキは、すごく羨ましそうな目で良明の
ことを見ながら言った。椎名の方は、昨日ル
ビン先生の授業でヨシュワキーいや良明とも
話しているので知っていた。

「あれさ、ヨシュワキー君じゃないよ、彼は
良明だから」

 椎名は、ヨシュワキー君って呼んでいるゆ
みに良明の本当の名前を教えた。


「そうなの?良明・・良明君っていうの」

 ゆみは椎名に言われて驚いていた。

「ロールパン先生がヨシュワキー君って教え
てくれたのよ」
「日本語が上手く読めなかったんだろう」
「そうなんだ」

 ゆみは良明の方を見た。良明は、ゆみには
何も言わずに黙ったままだった。

「そうなんだ。本当は良明君だったのね、ご
めんね」

 ゆみは良明に謝った。

「どうして手をつないでいるの?」

 ヒデキは、ゆみが良明と仲良さそうに手を
つないで散歩していたのを見て、少しジェラ
シーを感じながら質問した。

「だってお友達だから」


 ゆみは、ヒデキに手をつないでいるところ
を指摘されて、なんとなく新しい転校生のヨ
シュワキーいや良明君と仲良くなれたような
気がして、良明とつないでいる手をぶらぶら
揺らしながら嬉しそうに答えた。

「良明の家」につづく