ごぼう抜き

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第125回

 マリオネットの走りは、好調だった。

 船の後ろから受ける風、スピンセイルの走
りになってからは、前方を走っている艇の後
ろからセイルを覆いかぶせる形で、次々と追
い抜いていた。

 追い抜いた数も、既に10艇は超えた。

「俺は、ただステアリングを握っているだけ
で、前でスピンを動かしている佳代が走らせ
ているんだぞ。その指示でスピンのトリムを
している君たちの力で、ほかのレース艇たち
を追い抜いているんだからな」

 隆は、自分の目の前のコクピットで、スピ
ンのシートをウインチで引いたり、出したり
している坂井さんや松尾さんに、冷静に分析
していた。

「すごいな!」


 実際に舵を握っている隆や船首でスピンを
している佳代、クルーの坂井さん、松尾さん
よりも、船尾のオーナーズシートに腰かけて
いるだけの中野さんが、次々と追い抜いて行
くマリオネットの走りに一番興奮していた。

「よし!次は、あそこ走っている、あっちの
ヨットを追い抜こう!」

 船尾のオーナーズシートから隆に向かって
中野さんの指示が飛んでくる。

 その指示に従って、さらに前を行くヨット
を追い抜こうと頑張っていたのは、隆よりも
船首の佳代だった。

「あっちのヨットも追い抜くなら、もう少し
風下に落とさなきゃ!」

 中野さんの指示が飛んでくる度に、その指
示に合わせて佳代がスピンのトリムを微調整
している。

 隆は、それほどレースに熱中しているわけ


ではないのだが、佳代のスピントリムに合わ
せて、舵を動かしているので、結果的に前方
を行くヨットを追い抜いていくことになって
しまっていた。

「届かない」

 佳代が、腕を高く上げながら言う度に、坂
井さんの奥さんは、笑顔で佳代の手が届かな
い上のほうにあるスピンポールを上に上げた
り、下げたりしていた。

 すっかり、佳代とのチームワーク、連携も
できるようになっていた。

「おお!マリオネット早いじゃん」

 一番で風下のブイを周って、戻って来た暁
の望月さんが、いつもは最後尾を堂々と走っ
ているマリオネットが、次々と追い抜いてい
るのを見つけて、マリオネットに向かって叫
んでいた。

「早いでしょう!」


 船尾のオーナーズシートの中野さんは、嬉
しくて自慢そうに、暁の望月さんに返事をし
ていた。

第126回につづく