ゴール!!

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第126回

 結局、マリオネットは、前方にいたレース
参加艇のうち、クルージング艇の殆どを追い
抜いてしまった。

「風下のブイを周って、ゴールに戻るぞ」

 隆が、船首の佳代に言った。

 風下のブイを周る前に、今上がっているス
ピンセイルを下ろさなければならない。

 スピンセイルを下ろす前には、その代わり
に閉まってあったジブセイルをもう一度出さ
なければならない。

 佳代は大忙しだった。

 暁のような本当のレース専門艇ならば、風
下のブイを周るのと同時に、スピンセイルも
下ろして、なおかつジブセイルを出してセイ


ルを張るまで、全て同時にやってしまう。

 しかしながら、マリオネットやラッコのよ
うな普段は、クルージングしていて、たまに
所属するヨットクラブのクラブレースに参加
するだけのにわかレーサーは、そんな器用な
ことはできない。

 そこで、まずはしっかりスピンセイルを下
ろして、それからスピンの回収が全部終わっ
てからジブセイルを出す。

 その作業が終わってから、改めて風下のブ
イを周っているのだ。

 本当は、暁のようにすべて同時で作業でき
るほうが、風下のブイを周るぎりぎりまで大
きなスピンセイルを張ったまま、セイリング
できるので、ヨットは速く走れるのだった。

 が、隆たちのようなにわかレーサーが、そ
んな器用な芸当をすると、却ってスピンセイ
ルとジブセイルが絡まってしまったりして、
遅くなってしまうこともあるのだ。


 急がば回れだ。

 ここは、慎重にいこう。

「ゆっくりでいいから、順番に慎重に、まず
はスピンから下ろしな」

 急いで、スピンセイルを下ろそうとしてい
る佳代に、隆は助言した。

 佳代は、何度かラッコに乗っているときに
スピンを上げたり、下げたりしているが、坂

井さんや松尾さんは、あまりスピンセイルの
上げ下げの経験はない。

 佳代の操作に、二人の作業がついていけな
くなってしまう。

「はーい」

 隆に言われて、佳代も二人の作業スピード
にあわせて、少しゆっくり目に作業した。

 無事、スピンも下ろし終わって、風下のブ


イを周った。

 後は、ラッコがいる、本部艇の待っている
ゴールラインに向かって戻るだけだ。

 上りのレグ、ゴールラインまでの航路は、
風に向かって走って行くので、何回かタック
タックを繰り返さなければならないが、スピ
ンセイルほどの忙しい作業はない。

 佳代も少し落ち着いた感じで、坂井さんの
奥さんと並んで、風上側のサイドデッキに外

に向かって足を投げ出す形で腰かけていた。

 このまま、ゴールできれば、スピンのとき
に追い抜いたヨットは、かなり後ろのほうに
差をつけてあったので、かなり上位でゴール
できそうだ。

「お、暁さんがゴールしたね」

 隆は、舵を取りながら、サイドデッキの佳
代に伝えた。


 はるか前方を走っていた暁が、ラッコの待
つゴールラインを越えて、今ゴールしたよう
だった。

 それに続いて、何艇かのレース艇が次々と
ゴールしていた。

第127回につづく