泌尿器科の先生

ある日、突然どうやってもおしっこが出なくなった・・とてつもなく巨大なアレ- 前立腺肥大症 -との3ヶ月間にわたる大闘病記。

 次の日の朝、早朝には目が覚めてしまって
いた。病室のベッドに付いていた毛布は、け
っこうぺっちゃんこで薄っぺらい毛布だった
ので、これはきっと夜中に寒くなるだろうな
と思っていた。
 看護師さんにも、毛布が薄いけど、夜中と
か寒くならないですかと聞いてあったのだが
もし寒かったら、言ってくれればもう1枚毛
布を持ってきてくれると言われていた。
 しかし、夜中、一晩過ごしてみると、その
薄っぺらい毛布1枚でもぜんぜん寒くなかっ
た。

 理由は、真夜中になるとエアコンの吹き出
し口から出てくる温風が強くなって、病室の
中は、かなり暑いぐらいまでに暖まったから
だった。
 おかげで、ぐっすり眠れたかといえば、家
に1人残してきてしまった愛猫のことを考え
ると、1人で寂しがっていないかなと気にな
り、2時間ぐらい置きには目が覚めてしまっ
ていた。

 ちょうど真夜中に目が覚めたとき、ベッド
の足元のほうでなんかゴソゴソやっている音


に気づいた。

「あら、起こしちゃったかしら。ごめんなさ
いね」

 ベッドの足元のところ、ちょうど点滴スタ
ンドが置かれている辺りにしゃがんでいたの
は、夜勤の看護師さんだった。
 何をしているのか頭を上げて覗きこむと、
いっぱいになったおしっこの袋からおしっこ
をプラスチックのカップに移しているところ
だった。

「袋に貯まったおしっこって、時々抜くんで
すか」

 看護師さんが、おしっこの袋からおしっこ
を抜いているのをベッドの上から眺めながら
聞いた。看護師さんは、そうしないと袋がい
っぱいになってしまうからと教えてくれた。
 部屋が暗いし、足元のほうで作業している
ので、どうやって看護師さんがおしっこを抜
いているのかよく見えなかった。

 それから、私は朝までぐっすりと眠ってし


まった。といっても、朝の5時ぐらいには目
が覚めてしまったのだったが。
 5時ぐらいになって、目が覚めてしまって
ちょうどトイレに行きたくなったので、もち
ろん小さい方はトイレに行かなくても、クダ
を通して勝手に袋の中に出ているので、大き
い方に行きたくなったのであった。

 点滴スタンドを小脇に転がしながら、トイ
レに行って戻ってくると、昨日の夜は、私と
おばあちゃんぐらいしかウロウロしていなか
った病院の廊下にかなりの患者さんたちが目

を覚まして起き上がっていた。
 病院の患者さんたちって皆、朝が早いのか
なと思いながら眺めていた。

 なんとなく皆が起きているので、自分だけ
もう一回寝られなくなってしまい、エレベー
ターを降りていくと、1階の自販機でまた温
かいミルクティーを買って、それを持って談
話室に行き、談話室に置いてあった本を読み
ながら、ミルクティーを飲んでいた。

「あ、ここにいたんですか。どこに行ってし


まったんだろうと思ってた」

 パソコンをキャスター付き台車の上に載せ
て、ゴロゴロとやって来た看護師さんに声を
かけられた。
 朝の身体チェックらしくて、体温計を脇に
挟んでお熱を計った。さらに右腕に計測の機
械を巻かれて、血圧を測った。
 最後に、人差し指をマニキュアを塗るとき
のケースみたいなところに挿して、体調を確
認された。
 朝の身体チェックが終わった。

私は自分の病室に戻った。

 病室に戻ると、もう朝ごはんのプレートが
来ていて、テーブルの上に載っていた。
 メインのおかずとご飯、お味噌汁に生卵、
ヨーグルトまでもが付いていた。
 病院の朝ごはんは、旅館みたいに和食なの
かと思った。朝は、軽くパンを食べるぐらい
しか食べないのだけど、その日の朝ごはんは
とても美味しくて、まったく何も残さずに、
きれいに全部食べつくしてしまっていた。


 食べ終わった朝ごはんの食器も、忙しい看
護師さんに運んでもらうのでなく、自分で病
室の表の台車まで運んでおいた。
 そこにいた看護師さんが食べ終わった私の
朝ごはんの中身をチェックして、向かい側の
病棟で食事の片付けをしていた看護師さんに
全部完食ですと大声で報告しているのを聞い
て、ちょっと恥ずかしかったくらいだった。

 食後、部屋のベッドの脇にあった洗面台で
歯みがきをしてから、病院内を朝の散歩でも
してこようと点滴スタンドを転がしながら、

病室を出た。
 廊下の掲示板に貼られている貼り紙をぼけ
っと眺めながら、入院棟の受付の前を通り過
ぎると、そこにいた男性の先生が、私の朝の
健康チェックでの数値を確認しながら、もう
点滴を外しても良いよと言われた。

 そして、先生が側にいた看護師さんに声を
かけると、看護師さんがやって来て、腕に付
いていた点滴を抜いてくれて自由になった。
 わずか1日で自分の体力はしっかり回復し
たのであろう、ちょっと嬉しくなった。


「そしたら、お風呂に入りましょう」

 点滴が外れて、腕周りが自由になった私に
先生は言った。どうせ、きょうには家に帰れ
るけど。

 家に帰ったらお風呂に入るから大丈夫です
と遠慮したのだが、先生は看護師にお風呂に
入れてあげるように指示して、私は看護師に
連れられて、お風呂場に移動させられた。

 お風呂といっても、お風呂、バスタブは特

に在るわけではなく、シャワーの設備が鏡の
前に横に3個ぐらい並んでいるだけだった。
 看護師によると、昔は奥にお風呂もあった
のだが、お風呂のあったところは、蓋をされ
て塞がれていた。
 お風呂で患者さんが事故に遭われたことが
あるらしくて、それ以来、入浴時間は昼間だ
けになって、お風呂も無くなってシャワーだ
けになったのだそうだ。

 看護師さんがずっと一緒にくっついて、洗
うのを手伝ってくれそうだった。


 でも、おしっこが自力で出ない以外は、ぜ
んぜん元気なので1人でお風呂に入れますと
言って、看護師さんの手伝いは断ってしまっ
ていた。

 なんとなく他の人と一緒に、手伝ってもら
いながらお風呂に入るなんて恥ずかしいでは
ないか。

 それではと看護師さんは、私のおしっこの
袋をビニールの袋で覆ってくれて、濡れない
ように鏡の前の台に置いて、シャワーを浴び

れるようにしてから、お風呂の使い方を説明
してお風呂場を出ていった。

 1人になると、脱衣所で着ていた服をすべ
て脱いで、ビニールの袋で覆ってもらったお
しっこの袋を片手に持って、シャワーの前に
腰掛けた。
 おしっこの袋は、濡れないように鏡の前の
台に置いて、シャワーからお湯を出して、ボ
ディシャンプーで身体を洗った。髪も洗い終
わってさっぱりしてシャワー室から出た。


「ありがとうございます、すっかりさっぱり
しました」

 使い終わったタオルやシャワー室の中をき
れいに流してから、受付にいた先生と看護師
さんに御礼を言って、自分の病室のベッドに
戻った。

「午前中には、泌尿器科の先生に呼ばれると
思うので、先生に呼ばれたら、泌尿器科の診
察室まで一緒に行きましょう」

 病室にやって来た看護師が説明した。朝ご
はんも食べたし、お風呂いや、シャワーも浴
びて、身体も髪もきれいにさっぱりして、泌
尿器科の先生にいつ呼ばれても大丈夫だ。

「おしっこ袋の使い方」につづく