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横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第61回

「おはよう!」

 隆は、朝、デッキ上で歯を磨いていると、
雪が起きてきたので声をかけた。

 家にいるときは、家のバスルームの洗面台
の前で歯を磨いているが、クルージングに出
ると、歯を磨くのは、いつも船の後部デッキ

に出て、そこでコップと歯磨きセットを持っ
て磨いている。

 口をゆすぐのは、コップの水でゆすいで、
ゆすぎ終わった水は、そのままデッキから身
を乗り出して、海の中にぺっと出している。
 隆は、クルージングに出たときの、この解
放感ある歯磨きが好きだった。

「なんかいい。私も自分の歯ブラシ持ってき
て、ここで磨こうかな」
「うん、そうしなよ。気持ちいいぞ」


 雪は、歯ブラシを取りに、いったん船内の
キャビンに戻っていった。

「おはようございます」

 雪と入れ替わりに、隣りに停泊しているマ
リオネットのキャビンから、クルーの坂井さ
んが出てきた。

 Tシャツに短パン姿だ。

 短パンから出ている足は、日に焼けて見事

にまっ黒になっていた。

 会社でエンジニアをしている彼は、いつも
冷房のきいた部屋で、ずっとパソコンの前で
仕事している。
 横浜マリーナを出航したときは、オーナー
の中野さんに、女の子の足みたいと笑われて
いたぐらい、白い足をしていたというのに、
クルージングに出たこの数日間で、見事にま
っ黒に変わっていた。

「すごい、寝ぐせついていますよ」


 坂井さんの後ろから続いて出てきた奥さん
の頭を見て、隆は言った。
 ショートの奥さんの髪が、寝ぐせで見事に
上に跳ね上がっていたのだ。

「あら、そお」

 坂井さんの奥さんは、隆に言われて、あわ
てて自分の髪を手で撫でていた。

「ただいま」

 歯ブラシを取りにキャビンに戻っていた雪
が、手に歯ブラシを持って、戻ってきた。
 雪の後ろから、ルリ子や佳代も、手に歯ブ
ラシ持参で出てきていた。その姿を見た洋子
もキャビンの中から自分の歯ブラシを持って
出てきた。

「私たちも、外で歯磨きをしようと思って」

 こうして、ラッコの後部デッキに一列に並
んで並んで、皆は歯を磨き始めた。
 ラッコのサイドデッキに乗員たちクルーが


皆並んで立って、歯を磨いている。

「あら、皆そこに並んで立っていると、この
前クラブレースのとき、シリウスの人たちが
サイドデッキに並んでいたのみたい」

 キャビンから出てきて、皆が並んで歯を磨
いている姿を見た麻美が言った。
 麻美は、クラブレースでシリウスの船の人
たちが片側に寄って船の淵に腰かけてヒール
を抑えていた光景を思い出していた。

「皆でレースの時にヒールをおさえているよ
うにも見えるよね」
「レースのヒール抑えとは、やっている内容
がぜんぜん違うけどね」
「確かに。ただ歯を磨いているだけだもの」

 皆は笑ってしまった。

「今日は、どこに行くの?」

 ルリ子は、振り返って、口に歯ブラシを入
れたまま、隆に聞いた。


「今日は大島。大島の波浮港に船を入れて一
泊してから、そこから横浜に帰ろう」
「はーい」

 ルリ子は答えた。

「もう帰るんだね。早いな。もっとクルージ
ングしていたいな」
「私も。このまま一年間ぐらい、ずっと海を
走っていたいかも」

 ルリ子も、佳代も、もうすっかり海の女に

なっていた。

「俺も、一年間ぐらいクルージングしていた
いな」

 根っからの海の男の隆も言った。

第62回につづく


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