花火大会

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第60回

 その夜、夕食が終わったら、花火大会が開
催されることになった。

 花火大会といっても、別に式根島役場主催
で、ビーチから大きな花火が何発も、何発も
上がるというわけではない。

 出発前に、横浜マリーナでの買い出しで買

っておいた花火を、ラッコのメンバー皆で漁
港の岸壁でやろうというだけのことだ。

 三宅島の漁港では、周りも静かだったため
夜に花火を上げて騒ぐのが忍ばれたので、花
火大会は開催できなかった。
 でも、ここ、式根島、野伏港では、町は若
者たちで溢れ、夜遅くまで活気に満ちていた
ので、花火大会をやるなら、ここしかないっ
てことになって、今夜の開催が決定したのだ
った。


 ラッコたち以外にも、ビーチや浜辺のほう
でも、多くの人たちが花火を上げて、楽しん
でいた。

「夕食できたよ!」

 その日のラッコの夕食は、とても賑やかだ
った。
 いつものラッコのメンバー以外にも、マリ
オネットのメンバーが、ラッコのキャビンに
やって来て、皆で一緒の食事になった。

 今夜のメニューは焼き肉。野伏港の奥にあ
った小さなスーパーに、いろいろな種類の肉
が販売されていたのだ。

「松尾くん。お肉、焼き上がったから、たく
さん食べてね」

 麻美は、マリオネットのクルーの松尾君に
焼き上がったばかりの肉を、お皿に装ってす
すめている。

「そうだよ。松尾、遠慮することないんだか


ら、若いんだからどんどん食べなさい」

 マリオネットオーナーの中野さんも、松尾
に食事をすすめていた。

「ヨットは、遠慮したら失礼なんだよ。出さ
れた食事は、全部残さずに食べなくちゃいけ
ないんだ」

 隆が、ラッコのクルーたちに言いつつ、マ
リオネットのクルーたちにも教えていた。

「さあ、坂井さんたちも、遠慮せずにいっぱ
い食べなさい。ってラッコの人じゃない俺が
すすめることではないかもしれないけどな」

 中野さんは、お酒の入ったグラスを片手に
豪快に笑いながら話している。

「あら、可愛いブラウスね」
「さっき、着替えたばかりなんです」
「ルリ子、さっき、カニ取ろうとして海に落
ちたんだものね」
「海に落ちたの?」


「そう。夕方、そこの岸壁で大きなカニ見つ
けて取ろうとして落ちたの!」

 ルリ子自身ではなく、雪が笑いながら、坂
井さんの奥さんに答えていた。

 ルリ子は、麻美の横で黙ったままだったが
笑顔でお茶らけていた。

 ラッコの女性クルーたちも、坂井さんの奥
さんとの話をきっかけに、ほかのマリオネッ
トのメンバーたちとも仲良しになっていた。

「さあ、花火をしましょうか」

 夕食後、花火を持って、船から岸壁に降り
ると、ラッコとマリオネット合同で皆一緒に
花火を楽しんでいた。

 岸壁の外の道路を歩いていた若者たちも、
花火の音におもしろそうと、岸壁の方にやっ
て来て、いつの間にかラッコたちの花火大会
に混じって楽しんでいた。

第61回につづく