小猿

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第118回

 隆は、安心してキャビンから出てきた。

「麻美ちゃん、大丈夫そう?」

 キャビンから出てきた隆に、洋子が心配そ
うに聞いた。

「ああ、今、寝たところだけど、少し疲れた

だけかな、たぶん大丈夫だろう」

 隆は、洋子に答えた。

 隆が、キャビンの中で麻美の介抱をしてい
る間に、船は、既に観音崎を越えて、その内
側まで来ていた。

 ここまで来てしまえば、後は、猿島、八景
島、横浜ベイサイドマリーナを横に見ながら
横浜マリーナに戻るだけだ。


「麻美ちゃんが、船酔いしたって聞いたから
なんか私まで船酔いしている気がしてきた」

 ルリ子が言った。

「船酔いしそうだと思ったら、洋子と舵を代
わってもらえば良いんだよ。舵を握っている
と、操船に集中しているから、船酔いしてい
るヒマがない、というか船酔いが治るから」

 今は、雪から代わった洋子がステアリング
を握っていた。

 その洋子が、ルリ子に舵を握る?って聞き
ながら、ルリ子に舵を手渡した。

「うわ!なんかステアリングがすごく重い」

 洋子から手渡されたステアリングを操作し
ながら、ルリ子が言った。

 海が荒れていて、強い風が吹いているので
舵がけっこう重たいのだ。

「洋子ちゃんって、こんな重たい舵を握って


いたの」

 ルリ子は、洋子に驚いていた。

 洋子は、皆の中で、一番ヨットの上達が早
いみたいで、他の誰よりも、もうすっかりヨ
ットの操船も、お手のものだった。

 洋子ほど上手でなく、力もあまりないルリ
子は、船が左右に勝手に行かないように、必
死でステアリングを握っていた。
 おかげで、ルリ子の船酔いは、すっかりど

こかに行ってしまったようだった。

 ルリ子は、必死に舵を取っているつもりな
のだが、どうしても洋子や雪ほどに、うまく
舵を取れずに、多少は船の揺れが大きくなっ
てしまっていた。

 その揺れで、ジブセイル、ヨットの前方に
あるセイルの形が崩れて、船首に止めてあっ
たジブファーラーのロープが少し外れてしま
っていた。


「あ、ロープが外れた!」

 隆が叫んだ。

 サイドデッキにいた雪や洋子が、船首に行
って直そうとしたが、船の揺れが大きくうま
く行けずにいた。

「大丈夫だよ。もっと内陸に入ってから、も
しくは横浜マリーナに着いてから直そう」

 隆は、2人に声をかけた。

 そんな中、佳代だけは、船がまるで全く揺
れていないかのように、小柄な体でぴょんぴ
ょんとデッキの上をとび跳ねながら、船首に
行き、ファーラーロープを固定、しっかり直
して戻って来てしまった。

「佳代ちゃん、すごい!」
「お猿さんみたい」

 洋子は、佳代を見てつぶやいていた。

第119回につづく