セイルのスカート

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第119回

「あ、今度はジブセイルのスカートが、はみ
出している」

 佳代は、パイロットハウスの屋根の上をぴ
ょんぴょんと跳ねながら、また船首に飛んで
行って、ジブセイルのはみ出しをライフライ
ンの内側に直してきていた。

「すごいな!まるで小猿のように身軽に飛ん
でいくな」

 隆は、佳代の身軽さに驚いていた。

 もう一度、タックをすると、またジブセイ
ルのスカートがはみ出してしまっていた。

「佳代。スカートが、はみ出しているから直
してきてよ」

 佳代は、隆に言われて、ぴょんぴょんとパ


イロットハウスの屋根の上を飛び跳ねながら
船首に走って行って、直して戻ってきた。

 船首に着くと、ジブセイルのスカートをス
マートに手際よく直している。

 スカートといっても、別にヨットがスカー
トを着用しているわけではない。
 ジブセイルのスカートとは、セイルの下端
部分がライフラインの内側に入ってしまって
状態のことをヨットマンたちは呼んでいる。

 ヨットには、乗員が船から海に落ちないよ
うに、船体の周囲が金属製の細いロープで覆
われている。
 このロープが覆われているために、乗員は
そのロープに捕まったり、体を支えてもらっ
たりして、船から海に落ちてしまう落水を防
止しているのだ。

 このロープのことをライフラインと呼んで
いる。

 ジブセイルは、マストの前端、船首に張る


セイルのことだ。

 ジブセイルを引きこむと、ちょうどセイル
の下端が、ライフラインのロープと接触して
しまい、うまく引きこめないときがある。

 引きこめなかったセイルの下端は、ロープ
の外側に、まるで風に吹かれるスカートの裾
のように、ひらひらとしている。

 それでヨットマンたちは、そのことをセイ
ルのスカートと呼んでいるのだった。

 スカートが、はみ出していると、見た目も
悪いし、セイルがきれいに孕まないので、

「佳代。スカートが、はみ出しているから直
してきてよ」

 ということになるのだ。

 そうすると佳代は、ライフラインに掛って
いるセイルのスカート、ひらひらを上に引っ
張り上げてから、船体の内側に引き込みに行
くのだった。


 レース艇などの場合は、このスカートがは
み出していることで、セイリングのスピード
レースに影響するので、どんなに風が強くて
吹いていても、クルーが船首に行き、スカー
トを直してくる。

 だが、クルージング艇などの場合、スカー
トがはみ出しているのは、わかっているのだ
が、風も強いし、船首に行くのは危険だった
り、面倒だったりすると、あきらめてはみ出
したまま走らせてしまうヨットも多かった。

 ラッコも、隆が麻美と二人だけでセイリン
グしていた頃は、よくそのままにしていた。

 でも、今は、佳代がいてくれるので、セイ
ルが引っ掛かると、佳代が飛んでいって、す
ぐに直してきてくれるようになった。

「危ないからそのままでいいよ」

 麻美が元気でデッキにいるときは、佳代が
吹いている中、スカートを直しに行こうとす
ると、麻美が止めるので、スカートをそのま


まにして走ってしまうことも多かった。

 今は、麻美は調子が悪くキャビンでお休み
しているので、佳代は伸び伸びとデッキの上
を飛び回っていた。

第120回につづく