スピンセイル

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第123回

 一番最後にスタートしたマリオネットだっ
たが、ほかの船にだいぶ追いついてきた。

 暁たちのような、いつもレースを主体に活
動しているヨットたちは、既にはるか先のほ
うに行ってしまっているので、マリオネット
なんかには追いつけないが、まだ後ろのほう
でのんびりレースに参加していたクルージン

グ艇の参加艇たちには、マリオネットも追い
ついてこれていた。

「よし、佳代。そこの風上のブイを周ったら
スピンを上げて、ほかの船を皆、追い抜きに
かかろうか!」

 隆は、舵を握りながら佳代に伝えた。

「ブイを周ったら、すぐにスピンを上げられ
るように、スピンの艤装をもう一度確認して
おいてくれるか」


 佳代は、隆に言われて、船の船首に行って
スピンの艤装を確認する。

 坂井さんの奥さんを先頭に、マリオネット
のクルーたちもやって来て、佳代のスピンの
艤装を手伝おうとしている。

「スピンってカラフルなセイルのことよね?
私たちもまだあまり上げたこと無いから、佳
代ちゃんがどうやって上げるか教えてね」

 坂井さんの奥さんが、佳代に言った。

 スピンのセイルが、ちゃんと所定の場所で
所定のロープに結ばれているか、結ばれたロ
ープが絡んでいずに、セットされているか佳
代は、サイドデッキを忙しく動き回りながら
確認していた。

 間違ってセットされていたロープを坂井さ
んの奥さんに手伝ってもらいながら一度外し
て、もう一回結び直した。

※ヨットでセイルを上げ下げしたりするロー
プのことを、ヨットでは通常シートと呼んで


います。

 どうやら、無事スピンが上げられそうな状
態になった。

「佳代!誰がどこのポジションについて、ス
ピンを上げたらいいかを、お前が皆に指示し
て教えるんだぞ」

 コクピットで舵を握っている隆から佳代に
新たな指示が飛んできた。

 揺れる船上でも、機敏に動き回れる佳代は
自分であれやこれやとロープを動かして、ス
ピンを上げることは得意だった。

 が、小柄で人みしりの佳代には、誰かに指
図して動いてもらうというのは、とても苦手
だった。

 会社でも、上司から言われた書類を、自分
がパソコンで作るのは得意だったが、誰かに
指図して仕事するリーダー的な役割は、大の
苦手だった。


「どうした、佳代!お前が皆にちゃんと教え
なかったら、スピンを上げられないだろう」

 どうやって教えたらいいのか迷って、デッ
キに立ちつくしていた佳代にコクピットから
隆の大声が飛んでくる。

「このロープを引いたりすればいいかな?」

 困って立ちつくしている佳代に、坂井さん
の奥さんが優しく声をかけてくれた。

 佳代は、優しく声をかけてくれた坂井さん
の奥さんに黙って頷いて、スピンの上げ方を
説明した。

「それじゃ、このロープを引く人が必要だよ
ね。じゃあ、うちのだんなにこちら側のウイ
ンチで引いてもらおうか?」

 坂井さんの奥さんの助け船のおかげで、坂
井さんの夫のほうがスターボード側のウイン
チを担当することになった。


 反対側のポート側のウインチは、松尾さん
が担当することになった。

 坂井さんの奥さんは、サイドデッキにいて
船首でスピンポールの操作をする佳代のサポ
ートすることになった。

 どうやら、皆それぞれにスピンを上げるた
めのポジションが決まった。

「よし、ブイを周ったら、すぐにスピンを上
げるぞ」

 隆の声が聞こえて、佳代も、皆も、緊張し
て待機していた。

第124回につづく