静かな夜

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第110回

 ラッコの重たい船体は、館山港の岸壁に静
かに揺られながら停泊していた。

「ごはん、できたよ」

 キャビンの中から呼ぶ麻美の声で、乗員た
ちは、キャビンのサロンに集まった。

 横浜マリーナを朝、出航して、館山に到着
したのが夕方近くになってしまった。

 これから、少し遅め、だいぶ遅めの昼食を
食べようというところだった。なんなら、夕
食と呼んだ方が良かったかもしれない。

 昼、航海中に軽くおにぎりやお菓子をつま
んでいたとはいえ、つまんだ量が少なかった
皆は、お腹がぺこぺこだった。

「いただきます」


 お昼は、パスタだった。

 ミートソースとカルボナーレのソースが用
意されていて、それぞれ好みのほうのソース
をかけて食べていた。

 隆は、両方のソースを半分ずつパスタにか
けて、ふたつの味を両方とも味わっていた。

 皆、お腹が空いていたせいか、作ったパス
タは、見事にきれいに無くなっていた。

「ごちそうさま」
「なんか、今回のクルージングは静かだな」

 食事が済んで、皆は、キャビンのサロンで
一息ついていた。

「本当だね。なんかいつもより静かかも」

 確かに、いつものクルージングよりも話し
声も少なめかもしれなかった。

「ルリちゃんが、あんまりおしゃべりしてい


ないせいかな?」
「私?私って、そんなおしゃべりかな」
「ルリちゃんだって、おしゃべりってわけじ
ゃなくて、陽気で明るいのよね。私、ルリち
ゃんの明るいところ大好きよ」

 麻美が、ルリ子の頭を撫でながら言った。

「もしかしたらだけど、マリオネットがいな
いからじゃないかな」

 隆は、苦笑しながら言った。

「マリオネット?」
「いつもだと、マリオネットと一緒にクルー
ジングしているから、エンジンが停まったと
か、動かないとかって、いろいろ話題を作っ
てくれているじゃない」
「あ、それはあるかも」

 洋子が、隆の言ったことに賛成した。

「もう。またそういうこと言って。中野さん
に怒られるわよ」


 麻美は、横に座っている隆の頭を軽く叩き
ながら、苦笑した。

第111回につづく