スクールライフ

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 次の日の朝、兄は朝早くに会社に出かけて
いった。来月、会社に新しい課長が日本から
赴任してくるとかで、総務の兄は、その課長
のための住宅探しに一日ずっとマンハッタン
の不動産を周らないといけないらしい。
 そのために早出なのだそうだ。ゆみも兄に
付き合っていつもよりも早くに起きて朝食を
作った。隆はゆみの作った朝食を美味しそう
に食べると出勤していった。
 あとに残ったゆみは朝食の後片付けを終え
ると、メロディと一緒にリビングのソファで
一息ついていた。

「さて、何をしよう」

 もう一度寝るにはそれほど時間がないし、
学校に行くまでの時間をどうしよう。メロデ
ィと部屋で遊んで時間をつぶしていた。

「まだ少し早いけど、学校に出かけるかな」

 ゆみはメロディにバイバイをして家を出か
けた。朝早い時間だと学校までのいつもと同
じ道を歩いていてもなんか気持ちいい。
 学校に着いても、まだきっとクラスの誰も


来ていないだろうな、ゆみはそう思いながら
歩いていた。
 学校に着くと、まだ人がまばらでクラスの
教室にも2、3人しか生徒は来ていない。

「おはよう」

 ゆみが教室に入る。シャロルもマイケルも
まだ来ていない。でもゆみの隣りの席には昨
日からの転校生ヨシュワキーが来ていた。

「早い!もう来ていたの。おはよう」

 ゆみはヨシュワキーに日本語で挨拶した。

「グッドモーニング、ニーハオ」

 その後、英語と中国語でも挨拶してみた。
昨日、兄の隆に言われたヨシュワキー君は中
国人かもしれないというのを確かめてみた。

「ニーハオ」
「・・・」

 ヨシュワキーは、中国語にもゆみの方をチ


ラッと見るだけで得に何も言わなかった。

「緊張してるの?大丈夫だよ」

 その様子をみて、ゆみはヨシュワキー君に
話しかけた。結局、ヨシュワキー君が日本人
なのか中国人なのかよくわからなかった。

 ゆみはヨシュワキーの隣りの席に座りなが
ら言った。

「まだ誰も来ていないね」

 ゆみはいつも話す日本語のスピードをさら
にゆっくり一文字ずつにしてヨシュワキーに
話しかけてみた。

「今まだほかのアメリカ人の生徒あんまりい
ないから大丈夫だよ」

 ゆみは自分の席に腰掛けながら、もしかし
たら周りにいるアメリカ人の前だと話しづら
いのかなと思ったので、そうヨシュワキーに
話しかけてみた。


「あたし日本人だから。アメリカ人に見えて
しまうかもしれないけど、お兄ちゃんも日本
人だから大丈夫よ」

 ゆみは、自分の胸までのびた長い髪を手で
かき上げながら言った。
 ゆみは、兄の隆も亡くなった両親も日本人
なのだから自分の姿は、日本人らしいはずと
思っているのだが、髪の色も目の色も黒髪よ
りはちょっと茶色っぽい色してる。
 それにずっとアメリカ暮らしなので純粋な
日本人の容姿よりはいくらかアメリカ人っぽ

いのかもしれない。

 ゆみは、ヨシュワキーが日本からまだ来た
ばかりでアメリカン人の学校に転校して緊張
していて話ができなくなっているのだと思っ
ていた。そこで一生懸命、ゆっくりの日本語
で話しかけていたのだ。

「ゆみっていいます。ヨシュワキー君って呼
んでもいいですか?」

 ヨシュワキー君は黙ってゆみの話に頷いて


くれた。頷いただけだけど、初めてゆみの言
葉に反応してくれたので、ゆみは少しだけ嬉
しくなった。日本語のゆみに反応があったと
いうことはヨシュワキーはやはり日本人なの
だろうか。

 日本人かどうかはまだ確証はなかったが、
同じクラスメートとしてはお友達になれるの
ではないか、まずは第一歩かもしれない。
 もっと話したかったのだけれども、マイケ
ルやシャロル、アメリカ人の生徒たちが続々
と登校してきてしまった。

「授業、はじまるよ」

 ロールパン先生がやって来て授業が始まっ
た。ゆみは自分のバッグからルーズリーフの
ノートと教科書を出しながら、隣りの席のヨ
シュワキーの耳元で囁いた。
 するとヨシュワキーが自分のバッグから一
冊の大学ノートを出して自分の机の上に広げ
てみせてくれた。

 それを見たゆみは、自分の日本語がヨシュ
ワキーに通じたような気がして、ちょっとだ


け嬉しくなってしまった。
 アメリカの学校では授業中に取るノートは
大学ノートよりもルーズリーフを使っている
人の方が多い。ルーズリーフに仕切りを挟み
仕切りで、ここからここまでが国語、算数み
たいに仕分けてノートを取るのだ。
 ルーズリーフにファイルできるペンケース
なども売られていて便利だ。良明は日本の学
校から来たばかりなので、ルーズリーフでは
なく大学ノートを使っている。
 カンペンケースからペンを出して手に持っ
て、授業をまじめに受けているようだ。

でも、まだ日本から来たばかりの良明には、
ロールパン先生の話していること、英語が丸
っきりなんのことだかわからなかった。

午前中の授業が終わってお昼のランチタイム
がやって来た。ゆみたちの小学校では、お昼
のランチタイムは地下の食堂で食べる。
 お昼になると地下の食堂まで移動するのだ
が、学校じゅうの生徒が皆いっぺんに地下の
食堂を目指すので混雑する。
 そのためクラス毎にそれぞれ教室の前に並
んで順番に移動する。


「中国人なのかもしればい」

 ゆみは親友のシャロルと一緒に、お弁当を
持って教室の前に並びながら話した。

「中国人?」
「そう、日本人と中国人ってよく似ているか
ら、アメリカ人には区別がつかないの」
「そうか、なるほどね」

 シャロルは、ゆみから昨日、兄の隆が話し
ていた内容を聞いて頷いた。

 シャロルは前々から、ゆみの兄の隆は頭が
良いなと思っていたのだった。
 それが、今もゆみから昨日の兄の話を聞い
てやはり頭の切れる方だと感心していた。中
国人と日本人を見間違えているのか。それは
めちゃめちゃあり得るかも。

「それで朝、あたしがヨシュワキー君に中国
語で話しかけてみたんだけど、よくわからな
かったの」
「うん、そうか」
「その後に日本語で話したときに、あたしの


言ったことにヨシュワキー君が反応してくれ
たみたいなんだけど」
「じゃ、やっぱり日本人?」
「よくわからないんだけど・・」
「そうだよね。ただの愛想で反応しただけか
もしれないしね」
「そんな気もする」
「なにしろ、ゆみの日本語じゃ下手だから通
じたのかどうか確かめようがないよね」
「もう、シャロルったら」

 ゆみはシャロルのことを笑って小突いた。

「いい方法があるよ」

 シャロルはヨシュワキーが日本人なのか中
国人なのか確かめる何か良い方法を思いつい
たみたいだ。

「ランチタイム」につづく