ランチタイム

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 ゆみも、シャロルやマイケルと共に教室の
前の廊下に並んでいた。良明はそのことをま
だ知らないのか並んでいなかった。

「ヨシュワキー君、ランチタイムだから並ん
で食堂にランチを食べに行こう」

 ゆみは、まだ教室の自分の席に腰かけたま
まのヨシュワキーを慌てて呼びにいった。
 ヨシュワキーに英語と日本語の混じったつ
たない日本語で声をかけ、ヨシュワキーの手
を引いて廊下へと誘導した。

 良明も、ゆみに手を引かれて廊下の皆の列
に並んだ。階段を降りて食堂に行くと、校長
先生の「いただきます」の挨拶があって、食
事になる。

「食べよう」

 ゆみも、自分のバッグからお弁当を出して
シャロルたちと一緒に食べる。アメリカの学
校のお弁当は大概、小さな茶色の紙袋にビニ
ールのジップロック袋に包んだサンドウィッ
チ一個と小さな缶ジュース一本だ。


 ゆみも紙袋から自分で作ってきたサンドウ
ィッチを出してかぶりつく。
 ゆみのお昼のお弁当は、ほかのアメリカ人
の生徒たちと同じように紙袋にサンドウィッ
チ一個と缶ジュース一本なのだったが、同じ
学校の日本人の生徒たちの中には、アメリカ
人と同じお弁当の子もいるが、日本式のお弁
当箱にお米におかずのお弁当を持ってくる子
もいた。
 実は、ゆみも朝の毎日のお弁当作りのとき
にたまに、日本式のお米のお弁当も作ってい
る。お米は、カリフォルニア米や日本から輸

入されたお米が日本食のスーパーに行けば、
いくらだって買えるのでアメリカでも作れる
日本式のお弁当は作れるのだ。

 生まれたときからアメリカ暮らしのゆみに
は、どちらでも良いのだが、兄の隆はアメリ
カの料理よりも日本食、お米の料理を好んで
いた。
 そのため、ゆみは、夜の食事はいつもパン
ではなくお米を炊いていた。
 お昼の隆のお弁当も日本式のお米に夕べの
残りのおかずを入れたもので作っている。


 ごくたまには、自分の分のお弁当も隆の弁
当と同じに日本式のお弁当にすることもあっ
た。
 でも大概は、自分の分はアメリカ式のお弁
当を作っていた。

 今日のゆみのお弁当もアメリカ式のサンド
ウィッチだった。
 仲良しのシャロルと一緒の机でお昼のサン
ドウィッチを食べていた。
 シャロルと反対側の隣りの席に座っている
良明は何も食べていない。

「ランチタイムだよ。お昼ごはん食べていい
んだよ」

 ゆみは、ヨシュワキーに日本語で話しかけ
たが、ヨシュワキーは自分のバッグを膝に抱
えたままで、バッグからお昼ごはんを取り出
す様子はぜんぜんなかった。

 どうしてヨシュワキー君はランチにしない
んだろう?
 ゆみは不思議に思っていた。けどシャロル
はその理由に気づいたようだった。


「ね、ゆみ。彼はお弁当持ってくるの知らな
くて忘れたのではないの?」
「そうか」

 ゆみもシャロルにそう言われて、その理由
に気づいた。

「明日からお母さんにお弁当作ってもらうよ
うに言ったほうがいいよ」

 ゆみはヨシュワキーにたどたどしい日本語
で学校のランチのことを説明する。

「今日はお腹すいちゃうでしょう。あたしの
サンドウィッチ半分あげるね」

 そう言ってゆみは、自分の分のサンドウィ
ッチを半分に割ってヨシュワキーにあげた。
 しかし、なぜかはわからないが、ヨシュワ
キーは、ゆみのあげたサンドウィッチを結局
お昼休みが終わるまでに一口も食べてくれな
かった。
 ゆみはヨシュワキーの机の前に置かれた自
分のあげたサンドウィッチをビニール袋で包
んで、ヨシュワキーのバッグの脇に付いてい


るポケットに突っ込んだ。

「ごめんね。あたしの作ったサンドウィッチ
じゃ美味しくないよね、ヨシュワキー君のお
母さんの作ったサンドウィッチと比べたら美
味しくないのかもしれないけど、午後の授業
でもしお腹がどうしても空いてしまったとき
に食べてね」

 ゆみはヨシュワキーにそう言った。

「午後の授業が始まるから教室に戻ろう」

 ゆみは、ヨシュワキーの手を引っ張って午
後の授業のために教室に戻ることを伝えた。

 教室から食堂への移動は皆でまとまって移
動するのだが、食後の教室に戻るのは、各自
でばらばらなのだ。
 お昼を食べ終わってすぐに教室に戻る生徒
もいれば、食後を食堂で過ごして午後の授業
が始まる直前に教室に戻る生徒もいる。
 ゆみは、ヨシュワキーも同じクラスなんだ
し、午後も一緒に授業するとばかり思ってい
たのだった。


 ゆみは、シャロルとヨシュワキーと一緒に
午後の授業のために教室に戻っていった。

「ミスタールビン」につづく