レーススタート!

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第29回

 そろそろ、レースのスタート10分前にな
る時刻だ。

「洋子。持っている旗を10分前になったら
高く上げるんだぞ」

 隆は洋子に言った。

「この旗、棒の上下両方に違う旗が付いてい
て、扱いづらいんだけど」

 隆は、船内から船を着岸するときに、船を
岸に引き寄せるために使うボートフックとい
う長い棒を持って出てきた。

「片方の旗を、こっちに結べば、10分前の
ときにそっちの旗を上げて、5分前になった
らこっちの旗を上げればいいだろう」

 洋子に説明した。


「え、違うんじゃない。両方とも、このまま
こっちの棒の両サイドに付けておいて、10
分前になったらこっち側を上げて、5分前に
なったらひっくり返して反対側を上げるんじ
ゃないの」

 洋子が隆に言った。

「そうなのかな・・」

 隆も、普段クルージング、デーセイリング
ばかりでヨットレースなどやらないので、レ

ースのルールなどあやふやだった。

 洋子の話になるほどと思いながらも、せっ
かく船内からボートフックをわざわざ出して
きたので、片方の旗を自分が持ってきたボー
トフックに付け直したそうな隆だった。
 そのことを洋子は察していた。

「旗の一個は、そっちに付け直しますか?」
「うん、そうするか」

 隆は頷いて、洋子と下側の旗を取り外そう


としていた。

「違うわよ!洋子ちゃんの言う通りでいいの
よ。旗は、それぞれ棒の両サイドに付けてお
いて、時間によって棒をひっくり返すのよ」

 麻美が二人に注意した。

「洋子ちゃんも、別に隆が船長だからって、
隆の言うことをなんでも聞かなくたっていい
のよ。隆だって間違っていることは、いっぱ
いあるんだから」

 麻美が、洋子に言った。

「はーい」

 隆は、旗をボートフックに付け換えるのを
あきらめて、ボートフックを船内に戻しに行
ってしまった。

ピー!

「スタートです!」


 スタートの時間になったので、ルリ子は思
い切り笛を吹いた。
 ルリ子の笛の音を聞いて、それまでスター
トラインの周りをうろうろと走っていたレー
ス艇たちが、一斉にスタートしていった。

 今回のレースは、追っ手スタートだった。

 船の後ろから吹いてくる風でヨットが走る
ことを追っ手といった。追っ手の風のときは
スピンネーカーというカラフルな色の風船の
ような形をしたセイルを上げてヨットは沖に

向かって走っていく。

 色とりどりのセイルで走っていくヨットの
群れを、本部船のデッキ上から眺めているの
は綺麗で感動的だった。
 隆は、趣味の一眼デジカメを片手に夢中に
なってヨットの姿を写真に収めていた。

第30回につづく