いざ、出航!

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第28回

「さあ、出航しようか」

 隆が皆に言った。

 横浜マリーナのスタッフがリモコンを操作
すると、ラッコの閉まってある艇庫の扉と屋
根が開いていく。中から閉まってあったラッ
コの船体が姿を現す。

 スタッフが、その船体が乗っている船台を
クレーンで引っ張って艇庫から表に出す。
 艇庫から出したら、そのまま海際にある大
型クレーンの脇まで引っ張っていく。

 このクレーンは全長100フィートの艇ま
でが楽々運べるクレーンなので、全長わずか
33フィートのラッコは楽に上げ下ろしでき
てしまう。
 このクレーンに乗せると、ラッコがとても
小さなヨットに見えてしまうから不思議だ。


 横浜マリーナのスタッフが、クレーンで船
を海面まで下ろしたところで、隆たち乗員は
ラッコに乗船する。
 全員が乗船し終わったあとで、スタッフが
引き続きクレーンを下ろしていき、ラッコが
しっかり海に浮かんだところで、隆はラッコ
のエンジンをかけて、出発する。

 横浜マリーナのクラブハウスすぐ前にある
ポンツーン、ビジターバースにはレースの参
加艇がたくさん舫われていた。

 レース艇の乗員たちは、既に出航準備を終
えていて、デッキの上で座って、朝のコーヒ
ーなどとシャレこみ、カップを片手に飲みな
がら、のんびりと寛いでいた。

 これからレースという戦い前の、嵐の前の
静けさというところか。
 レースのスタート時間までは、まだまだも
う少し時間があるので、レース艇のデッキ上
のクルーたちも、仲間たちと楽しそうに笑顔
で談笑している。


 そんなのんびりしているレース艇たちの前
を通り過ぎて、ラッコはレースが行われる海
面を目指して出航していく。
 本部艇は、レースが始まる前に、海上にた
どり着いて、ブイを打ったり、いろいろとレ
ースのための準備をしておかなければならな
いのだった。

「ブイを打ちやすいように仕分けておいて」

 ヨットのステリアリングを握りながら、隆
はクルーたちに指示を出す。

 オレンジ色の三角のブイが二つと黄色の三
角のブイが一つ、デッキ上に乗っている。
 ブイには長いロープが付いており、ロープ
の先には、それぞれに岩で作ったアンカーが
結ばれている。これらのブイを、レース海面
に落としてレース会場は出来上がる。
 レース艇は、このブイを三角に周ってきて
だれが一番にゴールできるのか順位を競いあ
うのだ。

「重い、重い!」


 雪とルリ子は、ブイのアンカーの方を持ち
上げて、アンカーを打ちながら言った。

「私は軽い、軽いよ」

 洋子は、中に空気の入った丸いブイの方を
持つのを担当していた。

 ブイは、丸みがあって大きさこそアンカー
よりも巨大だが、ビニールの巨大な風船で中
身は空気の膨らみだけなので、女性でも軽々
と持ち上げられる。

 全てのブイを打ち終わって、皆は船の最前
部から後部のコクピットに戻って来た。

 洋子は、片手に大きな旗の付いた棒を持っ
ている。この旗を振ってレース艇たちにスタ
ート時間をお知らせするのだ。

 ルリ子は、レース艇の順位を記録するバイ
ンダーを手に持って、レースの始まりに備え
ている。

「それじゃ、ルリちゃんが笛の担当ね」


 麻美は、ルリ子にバインダー以外に笛も手
渡した。

 スタート時間の10分前になったら、笛を
吹いてレース艇たちにスタート10分前であ
ることを伝える。さらに、5分前でも笛を吹
いて5分前を伝える。1分前にも伝え、そし
て最後にスタート時間にほかよりも長い時間
笛を吹いて、レースがスタートとなる。

第29回につづく