PSAの値

ある日、突然どうやってもおしっこが出なくなった・・とてつもなく巨大なアレ- 前立腺肥大症 -との3ヶ月間にわたる大闘病記。

「次の方、どうぞ」

 朝から待ち望んでいた15番の部屋から先
生に呼ばれた。
 ちょうど、採血検査が戻って、しばらく、
10分ぐらい経ってのことだった。

「どうですか?」

 先生に、病気の具合を聞かれた。

「おしっこは、ちゃんと袋を付けているので

普通に出ています」

 私は、答えた。

 身体の中にクダを通して、そこから、身体
の外のおしっこの袋に出ているのだから、自
力でおしっこが出来ているわけではないのだ
ったが。

「さっきの採血検査の結果なのですが、PS
Aの値が22あります」


 先生は、採血検査の結果が書かれた紙を、
私に見せながら言った。

「普通は、正常だとPSAの値は、4以下なの
ですが、22というのは、かなり高いです」

 先生は、心配そうに、私にそう言っていた
のだが、私には、それがどれほど深刻なもの
なのかは、ぜんぜんわからなかった。
 PSAの値は、22でも何でも良いけど、
それよりも早く、このおしっこ袋を外せるよ
うになりたいなと、私は思っていた。

 それで、

「あと、お薬は、毎朝と毎晩、ごはんを食べ
終わった後に飲んでいます。そのせいかどう
かわからないですが、おしっこが出るように
なっているような気がしています」

 私は、先生に言った。

 そう言えば、先生が前立腺は治りつつあり
ますねと、言ってくれて、もうおしっこの袋
は要りませんと言ってくれるような気がして


いたのだ。

 もしかしたら、この時も、特には、おしっ
こが出るようになど少しも治っていなかった
のかもしれないが、この時の私には、たまに
おしっこがクダを通って、袋の中に出てくる
ときなどに起こる感触を、本気で治りかけて
いるものと思っていたのだった。

「そうですか。それでは、隣の診察室で、実
際にクダを外してみて、おしっこがちゃんと
出るようになったかどうかを確認してみまし

ょう」

 先生は、私に言った。

「隣の部屋で、クダを外すのですか?」
「はい、ここでは外せませんので」

 15番の診察室は、先生のデスクとパソコ
ンが置いてあって、その前に、患者が座って
先生の話を聞くぐらいのスペースがあるだけ
だった。
 私は、いったん表の廊下に出てから、隣の


部屋に移った。

「それでは、下に着ているものを下ろして、
タオルを掛けたら、そこのベッドに上向きに
寝てください」

 私は、服を下ろして、タオルを掛けて、ベ
ッドに横になった。
 ベッドに横になると、看護師が隣の部屋に
いる先生と会話していた。

「とりあえず、200ccで」

 私の身体から外に出ているクダの先端に、
おしっこの袋がぶら下がっている。
 そのちょうどクダの真ん中辺りで、クダは
二股になっていて、メインのクダの先っぽに
おしっこの袋がぶら下がっていた。
 二股のもう一方は、普段はキャップがして
あり、その先には何も付いていなかった。

 看護師は、先生の指示により、その空いて
いるクダのキャップを開けて、そこから水を
私の身体の中へ流し込んでいた。
200ccの水が全て私の身体の中へと流し


終わると、

「抜きますよ」

 看護師に、ぐいぐいとクダを2、3回引か
れて、私の身体の中に入っていたクダは抜け
てしまった。
 抜くのは、そんなに痛くなかった。

「抜けましたよ」

 看護師に言われて、はじめて、クダが抜け

ていることに気づいたぐらいだ。
 クダが無く、おしっこの袋もぶら下がって
いない状態の自分の身体に、ああ、自由にな
れたと、しばし感動してしまっていた。

「自由になれた!」

そんな晴れ晴れとした気分だった。

「また、おしっこの袋」につづく