また、おしっこの袋

ある日、突然どうやってもおしっこが出なくなった・・とてつもなく巨大なアレ- 前立腺肥大症 -との3ヶ月間にわたる大闘病記。

「それでは、少し歩いてきてください」

 クダを外してもらえた私は、看護師に言わ
れて、15番の隣の診察室から追い出されて
いた。実は、その少し前に、

「自由になれた!」

 クダが抜けたという晴れ晴れとした気分で
感動に浸っていた私は、看護師に声を掛けら
れていた。

「おしっこが出そうになったら、遠慮せずに
そのまま出してくださいね」

 ふと看護師の声に、我に返った私は、上向
きで横になっている自分の下半身を覗きこむ
と、大きなプラスチック製の花瓶のようなも
のを下半身に当てられていた。
 看護師が、その花瓶を、私の下半身に当て
ておいてくれたおかげで、私が、おしっこし
たくなったときに、そのまま、おしっこをす
れば、花瓶の中に、私のおしっこが出るよう
になっていた。


 本来ならば、クダを抜く前に、身体の中に
おしっこの代わりとなる水を大量に入れられ
ているので、クダを外すと同時に、その水が
おしっことなって、身体の外、プラスチック
製の花瓶の中に投入されるはずだった。
 しかし、特におしっこがしたいという風に
もならず、おしっこは何も出てこなかった。

「自分で、これを持って、おしっこがしたく
なったら、おトイレでこれを当てて、この中
に、おしっこをして下さいね」

 看護師は、私にプラスチック製の花瓶を持
たせて、隣の診察室に行ってしまった。
 しばらく、その花瓶を手にしたまま、ベッ
ドに横になっていたが、特におしっこがした
いということもなく、時間は過ぎてしまって
いた。

「それでは、少し歩いてきてください」

 そしたら、看護師に言われて、私は15番
の隣の診察室を追い出されたのであった。


 30分ぐらい廊下をぐるぐると歩き回って
くれば、おしっこも出たくなるだろうという
ことだった。

「おしっこが出たくなったら、戻ってくれば
良いのですか?」
「おしっこが出たくなったら、そのままトイ
レに行って、そこでおしっこしてきて大丈夫
です」
「出たおしっこは流してしまっても大丈夫で
すか?」
「その後に、診察室で検査できますから、検

査すれば、すぐにどのぐらいのおしっこが出
たかは、わかりますので」

 そして、私は診察室の外、廊下に出て、ま
ずは廊下を受付の方に向かって、ゆっくりと
歩いていた。
 受付の前まで到着すると、今朝ほど採血室
に行くときに通った反対側の窓際の廊下へ抜
け、その突き当たりを採血室とは反対の右に
曲がっていくと、2階のフロアに上がってき
たとき、エスカレーターの前に行けることが
わかった。


 エスカレーターの脇を通り抜けて、ぐるっ
と1周すると、また受付のある廊下の前まで
戻ってこられる。

「このコースで、ぐるぐる1周しよう」

 私は、ぐるぐる回るコースを決めて、歩き
始めた。
 おしっこの袋もぶら下げていないし、クダ
もくっついていない、自由なのだから、ぐる
ぐると廊下ぐらいいくらでも早く1周できる
はずなのに、なんとなく歩くスピードに調子

が出ない。

 下半身に、おしっこが貯まっている感じが
する。お腹が重たいのだ。病院の廊下の壁に
は、ずっと捕まって歩くことが出来るように
手すりが全面に設置されていた。
 私は、その手すりにしっかり捕まりながら
1周、2周と歩いていた。

「なんか、おしっこ出そう」

 2周回って、3周目に差し掛かったとき、


そんな気がしたので、ガラス張りの廊下に差
し掛かったとき、右折はせずに、採血室方面
を左折をして、採血室の手前にあるトイレに
向かった。
 トイレの中で頑張ってはみたのだが、おし
っこは一滴も出なかった。

「まだ、出たくないのか?」

 私は、再びトイレを出て、廊下に戻り、ぐ
るぐると廊下を1周するマラソンコースのコ
ースに戻った。

 さらに1周、2周と回って、また、おしっ
こがしたいかもと思えた。
 そして、トイレに行ってみるが、やはり、
おしっこは何も出なかった。

「まだ、ダメか」

 廊下に戻って、廊下のフルマラソンを再開
する。しばらく歩いていると、看護師が迎え
に来た。

「どうですか?出ましたか?」


「いいえ、まだです」
「診察室に戻りましょうか?」
「もう少し頑張れば、出そうですけど」

 私は、看護師と一緒に診察室に戻るために
廊下を歩き出した。と、なんとなくまた、お
しっこが出そうになった。

「なんか出そうな気が・・」

 私は、看護師にそう言って、最後のTRY
だと思って、もう1回だけトイレに行ってみ

ることにした。
 看護師は、先に診察室に戻っているそうな
ので、おしっこが終わったら、診察室に戻っ
てくるように言われた。

 トイレで頑張ってはみたものの、結局おし
っこは何一つ出なかった。

「出ませんでした」

 私は、診察室に戻ると、看護師に告げた。
再び診察室のベッドに横になると、私の身体


の中にクダが挿入されて、また、おしっこの
袋をぶら下げることとなった。

「まだ、薬のほうが効いてきていないみたい
なので」

 先生にそう言われて、もう後2週間分、ユ
リーフの薬を処方してもらうこととなった。
 また明日からも2週間、朝ごはんと夜ごは
んの後にユリーフの薬を1錠ずつ飲んで過ご
すことなってしまった。
 そして、さらに2週間後の木曜日、病院に

来て、再び、おしっこが出るかどうかの確認
のため、クダを外すこととなった。

 すごくガッカリだったが、仕方がない。

 診察室を出て、廊下のソファに腰かけて待
っていると、看護師が、次の2週間分のユリ
ーフの処方箋と次の予約票、本日の会計を持
って出てきた。

 私は、看護師からそれらが入ったファイル
を受け取り、1階エントランスにある会計窓


口に持っていく。
 会計窓口で会計処理をしてもらうと、診察
券が返されて、その診察券を脇の精算機に投
入すると、本日の診察代が機械の画面に表示
された。

4500円

 それを支払ってから、百均で購入したバッ
グに、おしっこの袋を入れ、肩からぶら下げ
て病院を出る。
 帰りは、この袋をぶら下げていないと思っ

ていたので、また、おしっこの袋をぶら下げ
ての帰り道はなんか凹んでいた。

 それでも、次回、2週間後こそは、クダを
外せば、おしっこが出るようになっている、
そう信じて、病院を出ると、すぐ隣のイオン
薬局に行き、そこで2週間分のユリーフをも
らって帰る。

 前回もらった分のユリーフは、ちょうど今
夜の夜ごはんの後に飲む分で最後だった。
 明日からは、今日もらったユリーフを毎朝


晩と飲み始めることとなるのであった。

「2回目の挑戦」につづく