2回目の挑戦

ある日、突然どうやってもおしっこが出なくなった・・とてつもなく巨大なアレ- 前立腺肥大症 -との3ヶ月間にわたる大闘病記。

「次こそは、おしっこ出るようにしなきゃ」

 初めての外来での診察の後、私には、それ
以外のことは全く考えられなかった。
 惜しくも、最初の外来診察では、クダを外
しても、おしっこは全く出なかったが、その
2週間は、忘れることなく常に、朝ごはんと
夜ごはんの後には、ユリーフを1錠ずつ飲み
続けてきたのだ。

「初めて飲む薬だし、薬を飲みはじめてから
時間が必要、たまたま、まだ薬の効果が出な

かっただけのことさ」

 そう、ただのそれだけだ。

 次の2週間も、ちゃんとユリーフを朝晩飲
み続けていれば、いくらなんでも、2週間後
には、クダを外したら、おしっこは、ちゃん
と出るようになるだろう。
 ぜったいにそうに違いない。

 だから、その2週間も、ユリーフのお薬を
飲み続けた。


 そして、2週間が経った。

 その日の朝、前回、初めての外来診察の後
に、イオンの薬局に処方箋を提出してもらっ
たユリーフの入った袋の中を覗きこむと、も
う残り2錠のユリーフしか残っていない。

「さあ、朝ごはんは食べ終わったし・・」

 私は、袋の中の2錠のうち、1錠を手に取
って、飲んだ。
 これで、もう袋の中には、あと1錠しか残

っていない。
 今日、これから行く2回目の外来診察で、
おしっこが出れば、この残り1錠は、もう飲
まなくても良いのだ。
 というよりも、さすがに、4週間ユリーフ
を朝晩飲み続けているのだ。
 今日こそはクダを外せば、おしっこもたっ
ぷりと出ることだろう。

「この最後の1錠は、余ってしまうな。どう
しようかな」


 私は、袋の中を覗いて、最後の1錠を眺め
ながら考えていた。

「とりあえず、病院に行かなくては・・」

 最後の1錠のことをボケッと考えていると
時間は、あっという間に過ぎてしまい、そろ
そろ家を出ないと、予約の時間に遅刻、間に
合わなくなってしまう。

「行ってくるね」

 愛猫に、お出かけの挨拶をしてから、おし
っこの袋をぶら下げて家を出た。

 相変わらず、この病気になってからの私は
歩くスピードが遅い。
 普段ならば、10分ぐらいで歩ききってし
まう道を、だらだらと1時間ぐらいかけて、
病院にたどり着いた。

「なんで、遅いんだろう」

 ずっと、自分の歩くスピードが遅いのは、


下半身にへんなクダをぶら下げて、おしっこ
の袋を提げて、歩いているからと思った。
 もちろん、そのせいもあるのだろうが、な
んとなく体調がやる気でないせいもあるのか
なって感じだった。

「まあ、いいや。今夜はもう寝てしまおう」

 病気になってからの私は、確かにあまりや
る気が出なかった。
 普段ならば、けっこう遅くまで起きていて
いろいろパソコンを開いて作業していたりす

るのに、病気になってからは、夜9時過ぎに
は、寝てしまうことも多かった。

「まあ、見逃し配信でも見ればいいや」

 楽しみにしていたテレビのドラマなんかも
見たいという気持ちよりも、寝たいという気
持ちの方が大きく、眠ってしまうことの方が
多かった。
 やはり、病気のせいで、身体も弱っていた
のであろうか。


「お願いします」

 私は、病院に着くと、2階の泌尿器科の受
付に、診察券と予約票を提出した。
 初めての外来のときとは違い、1階のエン
トランスホールで迷うこともない。
 病院の敷地内に入ると、真っ直ぐにエント
ランスホールを抜けて、2階へのエスカレー
ターを上がって、泌尿器科に直行していた。
 慣れたものだった。

「泌尿器科の予約ですね」

 受付の看護師が、私の手渡した予約票と診
察券を確認して言った。

「はい、15番の前で待っていれば良いです
か?」

 私は、看護師に言うと、看護師が頷いたの
で、前回の診察と同じように、15番の診察
室の前にある廊下の椅子に腰かけて、順番を
待っていた。
 なんだか、もう長いこと病院に通い続けて
いるベテランの患者になった気分だった。


「次の方、どうぞ」

 診察室の中から先生に呼ばれて、部屋に入
った。

「どうですか?」
「毎日、朝晩は必ずお薬を飲んでました」

 私は、先生に答えた。

「体調は良さそうですか?」
「はい、特に変わりはないですけど・・」

「そうですよね。おしっこが出るようになっ
ているかどうかは、外から見るだけでは、よ
くわかりませんものね」

 そして、また隣の診察室で、クダを外して
みて、おしっこが出るようになっているかど
うか確認してみましょうとなった。

 一度、15番の部屋を出ると、すぐ隣の診
察室に移動する。そこには、前回のときと同
じ看護師がいた。


「それでは、またクダを抜いて、おしっこが
出るか確認しますので、ズボンを下ろして、
タオルをかけて、ここに寝ていて下さい」

 看護師は、部屋の奥に行ってしまった。

 私は、ベッドの脇のカゴに持っていたバッ
グを入れると、ズボンを半分下ろし、看護師
からもらったタオルをかけて、ベッドの上に
横になった。

「準備いいですか」

 看護師が部屋に戻ってきた。

 また、前回同様、はじめにクダを抜く前に
お腹の中に水を入れられてから、クダを抜か
れるのかと思っていたが、何やらモニターの
のった台車を押してきた。

 持ってきた台車を、私の寝ているベッドの
脇に置くと、先生が入ってきて、モニターを
確認しながら、何か冷たい金属のようなもの
を、私の下っ腹に当てられた。
 すごく冷やっとする。


 その金属を、私の下っ腹の何カ所かに当て
られ、先生はモニターでチェックしていた。

「おしっこは、普通に問題なくクダから外の
袋に出ているみたいですね」

 先生は、そう言うと、クダの途中のところ
から水を私の体内に少し入れた。
 それから、クダを私の身体からぎゅっと引
き抜いた。引き抜いたときの痛みをこらえて
いると、

「まだ、何も出ませんね」

 先生が、そうつぶやいた。

 その声に、私は頭を少し持ち上げてみると
プラスチック製の花瓶のようなものを下半身
に当てられていた。

「これを持って、おしっこが出そうになった
ら、この中に出してください」

 先生に言われて、私は、自分の下半身に当


てられたプラスチック製の花瓶を持たされて
いた。
 先生は、私に花瓶を持たせると、隣の部屋
に行ってしまった。

 その中に、おしっこが出ているのかよくわ
からず、少し花瓶を外して、中を覗きこんで
みた。特に、何もまだ、おしっこは出ていな
いようだった。

「どうですか?」

 先生と入れ替わりに、看護師が来た。

「特に、まだ何も出ていないようです」
「そうですか」
「なんだか、この中よりも、トイレの方が出
るような気がするのですが」

 私は、花瓶を看護師に見せながら聞いた。

「いいですよ。また少し廊下を歩いてから、
トイレで出しますか?」
「はい」


 私は、花瓶を置くと、ズボンを履いて、バ
ッグを持って診察室を出た。
 看護師と別れて、また病院の廊下をうろう
ろする旅に出た。

「おしっこが出た!」につづく