袋と生活する準備

ある日、突然どうやってもおしっこが出なくなった・・とてつもなく巨大なアレ- 前立腺肥大症 -との3ヶ月間にわたる大闘病記。

 朝、目が覚めた。時刻はもう8時を少し過
ぎていた。

「ごはんです」

 昨日までの入院中だったら、あともう少し
で朝ごはんが運ばれてくる時間だった。
 もう病院は、退院したのだが、これからは
なんとなく病院で食べていた規則正しい時間
をちゃんと守って自分で食事をとるようにし
ていかなくてはと思っていた。

 病院での食事時間は、
朝ごはん:8時30分ごろ
昼ごはん:12時30分ごろ
夜ごはん:18時30分ごろ
だった。

特に、おやつの時間はなかった。患者さんは
一応、食事と食事の間には、病院の下にある
コンビニやレストランで自由に食事をしても
良かったみたいだったが、私は、病院で出さ
れる食事以外は一切口にしていなかった。


「これからは、この時間を守って食事するよ
うにしよう」

 退院の次の日は、土曜日だった。たまたま
土日だったのが幸いして、とりあえずこの週
末は、病院の食事時間を守れそうだ。

 朝、8時半に朝ごはんを食べてから、ちょ
っと近くのイオンまで買い物に行くことにし
た。イオンは、昨日まで入院していた病院の
すぐ隣りだ。

 昨日、病院を退院して、家まで帰ってくる
までの間、いつも外出時に提げている小さな
トートバッグの中に、おしっこ袋を入れて、
持ち帰ってきていた。

「なんか臭い」

 帰り道、小さめのトートバッグを肩から提
げていると、バッグ本体がちょうど上腕辺り
にくる。信号待ちで立ち止まったりしている
ときに、トートバッグの中からおしっこ袋の
おしっこの匂いが、ぷーんとしてくるのだ。


 お出かけするときに、おしっこ袋を入れて
肩からぶら下げられるような何か専用の袋が
あったほうが良いなと思ったのだった。
 たぶん、百均、100円均一ショップで何
か良さそうなものが売っているだろう。

「ちょっとお買い物に行って来るね。すぐ戻
るよ、キャットフードも買ってくるからね」

 私は、愛猫に声をかけてから、買い物に出
かけた。
 イオンに到着すると、4階の百均売り場に

立ち寄った。ちょうど、おしっこ袋を入れて
移動するのに最適なバッグが何かないかな、
店内をぐるっと周ってみた。
 紺色の袋で、中に物を入れたら、上の入り
口に付いている紐を引っ張ると、入り口が窄
まって、閉まる袋があった。
 入り口を閉めた後は、その引っ張った紐の
部分を肩から提げて持ち運ぶことも出来そう
だった。

「ちょうどいい、これにしよう」


 私は、それを手にした。が、レジに行く前
に、もう一つ買いたいものがあった。それは
大きめのプラスチック製のエスカンだ。

 退院のとき、看護師に点滴スタンドから取
り外したおしっこ袋を渡されるとき、家にい
るときは、なるだけ袋は、身体の下のほうに
置いておくのが良いと言われていたのだ。
 寝るときも、袋は身体の下に置いておくほ
うが良いので、S字の何か引っかけるものが
あれば、それにぶら下げて、ベッドの金具に
ぶら下げておくとよいとアドバイスしてもら

っていた。

「大きいエスカンないかな」

 売り場の中を探していると、台所の戸棚に
フライパンをぶら下げる用なのだろうか、プ
ラスチック製の大きめのエスカンが見つかっ
た。
 紺色のバッグとエスカンを持って、レジに
行き、ワオンで支払った。

ワオン!


 まさか、レジの人も、紺色のバッグを、お
しっこの袋を入れるために購入したとは思い
もしないだろう。
 エスカンだって、おしっこの袋をぶら下げ
るために使われるなんて想像もしていなかっ
ただろう。

「ただいま」

 家に帰ると、早速おしっこ袋をトートバッ
グの中から取り出して、買ってきた百均の紺
色バッグに入れて、紐を絞って入り口を閉じ

てから、肩からぶら下げてみる。
 紐がいい感じに長く伸びて、肩からぶら下
げると、バッグ本体がちょうど太ももの足の
下ぐらいまでくる。袋は、なるだけ低い位置
にあったほうが良いのだから、結構ちょうど
良い位置かもしれない。

 今度は、おしっこ袋を、紺色バッグから取
り出して、袋の上にくっついている取っ手を
エスカンにぶら下げてみる。
 そのまま、ベッド脇に付いている出っ張り
にエスカンをぶら下げてみた。


「なかなかいい感じじゃないか」

 デスクの前の椅子に腰かけて、パソコンを
使用するときには、エスカンのくっついたお
しっこ袋を、椅子の背もたれに引っかけて、
ぶら下げておく。

 これで、これからしばらく、おしっこ袋と
暮らしていくための準備は、整った。
 夕食のときには、ダイニングテーブルの脇
に、おしっこ袋のエスカンをぶら下げて食事
をするようにした。

 食後には、病院で処方されたユリーフの薬
を1錠飲んだ。
 朝ごはんと夜ごはんを決まった時間に食べ
ることは、食後には必ずユリーフを1錠飲ま
なければならないためにも重要だった。

 朝と晩の食後に、必ずユリーフを飲むこと
は、早く前立腺を小さくして、またクダ無し
でも、おしっこが出来るようになるためにも
今の私にとっては、とても大切なことだ。

「ずれていく食事時間」につづく