おしっこは出るようになっているはず

ある日、突然どうやってもおしっこが出なくなった・・とてつもなく巨大なアレ- 前立腺肥大症 -との3ヶ月間にわたる大闘病記。

 次の日の朝、目が覚めた。

「ごはんです」

 朝ごはんを食べ終わって、朝のユリーフの
お薬を1錠飲んだ。
 そして、また意味のないことは、わかって
いるのだが、おしっこがしたくなり、トイレ
に向かった。

「そろそろ、おしっこには自分の力で出れる
ようになってもらわなきゃ」

 もう次の診察日まであと1週間を切ってい
るのだ。
 そろそろ少しずつでも良いから、クダを外
しても、普通におしっこがトイレで出来るよ
うになってもらわなくては。
 いや、自力でおしっこが出てくれるような
兆候だけでも現れてもらわなくては困る。
 私は、そう思っていた。

 きょうは週末、土曜日だ。

 会社もないし、おしっこが出れるようにな


るための訓練に、とことん付き合ってあげら
れる時間はいっぱいあるのだ。
 そう思って、朝からトイレに駆け込み、座
っていたのだった。

 しかし、相変わらず、おしっこは、身体の
中を通っているクダを通じて、勝手に、おし
っこ袋のなかにへと流れていっている。
 いったい、どのようになると、おしっこが
自力でも出れるようになる兆候なのかも、自
分ではさっぱりよくわからなかった。

「あれ、なんだかクダが外れそうな動きをし
ていないか」

 私は、ずっとトイレの便器に腰かけている
と、身体の中から飛び出しているクダが、尿
道のところからビクンビクンと外れそうな動
きをしているような気がしてきていた。

 もしかして、自分の身体が、尿道が自力で
も、おしっこを出せるようになってきていて
そのため、身体にくっついているクダのこと
を異物として捉え、それをなんとか外そうと


しているように思えていた。

「そうだ、きっと尿道がクダのことを余計な
異物と認識し出しているんだろうな。毎日、
ユリーフを飲んできた成果なんだろうな」

 私は、勝手にそう思っていた。

「いいぞ。きっと、おしっこは自力でも出る
ように治ってきているんだ」

 私は、医学的な根拠など全く無いが、勝手

にそのように感じていた。

「そろそろお昼だな」

 お昼ごはんを食べ終わったら、近所のイオ
ンまで食料品の買い出しに行ってこよう。
 そして、お昼ごはんを食べ終わると、近所
のイオンまで歩いていた。

「あ、なんだか歩く度に、クダが少しずつ身
体から外れてきているような気がする」


 私は、イオンまでの道を歩きながら、勝手
な妄想をしていた。

「もしかして、ユリーフの薬で、おしっこを
自力でも出せるようになってきた尿道が、尿
道の中央を通っているクダのことを異物とし
て認識、異物は身体から外してしまおうと思
っているのだ」

 いつしか私はそう思うようになっていた。
そして、私の医学的知識などない、勝手な妄
想は、イオンへの道を歩いている間じゅう、

勝手にどんどん膨らんでいった。

 私の尿道は、毎日、朝晩飲んでいるユリー
フの薬のおかげで、急速に回復していた。
 前立腺も小さくなってきているようだ。

「ただいま!」

 イオンでの買い物を終えて、家に戻ると、
玄関先にお出迎えに出てきた愛猫の頭を撫で
てあげてから、部屋の中に入った。
 買ってきた食料品を、冷蔵庫の中にしまっ


てから、おしっこに行きたくなって、トイレ
に駆け込むと、便器に腰かけた。

「なんだか、クダが少し長くなったような気
がするな」

 私は、手に持っている自分の身体から飛び
出している透明なクダをみて、そう思った。
 今朝、クダを見たときは、もっとクダの長
さは短かった気がしていた。
 それが、今見たら、今朝よりもクダの長さ
が、ぜんぜん長くなっているように感じた。

 そう、私の尿道は、毎日のユリーフのおか
げで、どんどん急速に回復していたのだ。
 回復してきた尿道は、膀胱の中に貯まった
おしっこを、自分の中央に通っているクダの
力なんかに頼らなくても、自力でおしっこを
身体の外に排出できるようになっていた。

 そうなると、私の尿道としては、自分の中
央を通っているクダの存在が邪魔くさくなっ
てきていた。
 このクダは、身体にとって完全な異物だ。
身体の中に存在する異物は、身体から出して


しまわなければならない。

 そう思った私の尿道は、必死になって、自
分の中央を通っているクダのことを身体の外
に取り出そうとしていた。
 その結果、少しずつだが、クダは、私の尿
道によって、身体の外へ、外へと排出されて
いたのだ。

 ポン!

 そして、私の尿道に押し出されたクダは、

私の身体から突然外れ、そして床の上に転が
った。
 いきなりクダが外れた私の尿道からは、膀
胱に貯まっていたおしっこが飛び出してきて
床の上に散らかった。

「ああ、掃除しなくちゃ」

 私は、慌てて自分の尿道がまき散らした床
のおしっこを、トイレットペーパーで拭き取
っていた。
 床の上に転がっている身体から外れたクダ


を拾い上げると、外れたクダを再び自分の尿
道に挿入しようとしたが、うまく挿入できな
かった。

「仕方がない。週明けになったら、外れてし
まったクダを持って、病院に行って、診ても
らおう」

 そう思いながら、外れたクダをぐるぐると
巻くと、おしっこの袋と一緒に机の上に乗せ
ておいた。
 その間、週末のおしっこは、どうしていた

かというと、おしっこは普通に尿道からトイ
レに出ていたのであった。

 週明けになって、身体から外れたクダとお
しっこ袋を持って、病院に行って、それらを
先生に見せると、

「ああ、ユリーフの薬が効いたみたいです。
もう大丈夫です、クダが無くても、おしっこ
は普通に今まで通りできます」

 先生は、私に言ってくれた。


 前立腺の病気が治って、またおしっこが出
来るようになったのだ。
 なんだか嬉しくなって、だらしなく私の顔
から笑顔がこぼれていた。

 そこで、私は、ハッとして、自分がイオン
で買い物してきたレジ袋をぶら下げて、自分
の家の玄関に立っていることに気づいた。
 おしっこの袋は、肩からぶら下げている百
均のバッグの中に入っており、そこから伸び
たクダは、私の身体の、尿道の中へと繋がっ
ていた。

「なんだ、クダがポンと外れたのは、ただの
自分の妄想か」

 でも、もしかしたら本当にクダの長さが、
今朝確認したときのクダの長さよりも長くな
っているかも、そう思った私は、トイレに行
くと服を脱いで、自分の身体についているク
ダの長さを確認した。

 もちろん特に、クダの長さが長くなってい
るなどということはなく、クダが身体から外
れていることも全く無かった。


「前立腺は小さくなっているはず」につづく