賑やかな夕食

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第113回

 昨日の館山は、静かな夕食だった。

「中野さん、勝山に来ていたんですか」

 隆は、ラッコを港の岸壁に停泊し終わって
から、マリオネットの中野さんに聞いた。

「ラッコさんが、昨日、千葉に行ったって聞

いていたので、もしかして勝山かなって思っ
て、昨日追っかけてこっちに来たんだ」

 中野さんは答えた。

 マリオネットは、昨日のお昼前、ちょうど
ラッコが館山に向けて出航した直後ぐらいに
横浜マリーナに集まって、勝山に来たらしか
った。

 マリーナのスタッフから、ラッコが千葉に
向かったって聞いて、勝山だろうって思って


目的地を勝山に決めたらしい。

「それじゃ、昨日から泊まっていたというこ
とは、今夜も勝山に停泊?勝山で二泊するん
ですか」
「そういうことになるね」

 中野さんは言った。

「暁さん、一番で走っていて、とても速かっ
たですよ」

 麻美は、中野さんに暁の浮島レースを観戦
していたことを報告した。

「暁さんはすごいよね。いつもレースはトッ
プで、若いクルーをたくさん乗せて大変だろ
うね」

 中野さんは、暁のことを感心していた。

「お風呂に行こう」

 隆は、ラッコのクルーたちに声をかけて、


皆で勝山港から歩いて5分ぐらいのところに
ある銭湯に向かった。

 銭湯で、海の上でついた海水を洗い落とし
て、さっぱりできるのも気持ち良いが、帰り
に勝山の商店街で、夕食の買い出しをするの
も目的だった。

「何、食べたい?」

 麻美は、小さな魚屋さんの前で、魚を選び
ながら、皆に聞いた。

 ルリ子と佳代は、魚屋の店頭脇にあるバケ
ツの中に入れられていたタコに夢中になって
いた。タコは、まだ生きていて、長い手をぐ
るぐると回してルリ子のほうに手を伸ばして
きた。

「かわいい♪」
「ぬるぬるしているけど、気持ちいいね」

 佳代も、タコの手足をさわって撫でてあげ
ながら言った。


「今夜の夕食は、タコにしようか?」

 二人の後ろから、麻美が声をかけた。

「え、食べちゃうの?かわいそうだよ」

 結局、タコは買わずに、ほかの魚の刺身を
買って、魚屋を後にした。

 船に戻って、麻美たち皆は、ラッコのギャ
レーで夕食の準備を始めた。

 買ってきた魚の刺身も、お皿に盛りつけて
テーブルに出す。

 マリオネットのクルーたちも、ラッコのキ
ャビンにやって来て、皆で一緒に夕食作りを
してから、キャビンで食事をした。

 昨日の夕食は、ラッコのメンバーだけで少
し寂しいくらいに静かな食卓だったが、今夜
は、マリオネットのメンバーも一緒で、大変
賑やかな夕食となった。


 いつものように、隆と洋子、佳代、ルリ子
たちは、ラッコのメインサロン、パイロット
ハウスから一段下がったところにあるダイニ
ングで食事となった。

 麻美と雪は、マリオネットのメンバーたち
と一緒に、パイロットハウスにあるメインサ
ロンでの食事だ。

 麻美たち大人班のテーブルには、ワインや
お酒が並べられて、夜も遅くなり時間が経つ
に連れて、皆は次第に元気になってくる。

 反対に、隆たちのテーブルのメンバーは食
事だけでお酒はあまり飲んでいないので、あ
る程度、夜が遅くなってくるとだんだん眠く
なってくる。

「お先に失礼します」

 隆たちは、暁のメンバーたちに声をかける
と、いつものように先に眠りについた。

「ベッドメイク、ちゃんとできてる?」


 麻美は、ギャレー前のダイニングのテーブ
ルを下げて、クッションを敷いて、その上に
シーツを敷くと、そこで洋子とルリ子が眠れ
るように、ベッドメイクをした。

「おやすみなさい」

 ダイニングとギャレーの間のカーテンを閉
めて、中ではパジャマに着替えたルリ子と洋
子が横になって眠りについていた。

 ルリ子たちのベッドメイクを終えると、麻

美は一番最後部の隆と佳代の寝ている部屋に
行き、そこのベッドメイクだ。

「いつも思っていたのですが、ラッコさんで
は、バースにちゃんとシーツとか敷いて寝る
んですね」
「マリオネットさんは敷かないのですか?」

 麻美は、逆に中野さんに聞き返した。

「うちは、特には敷かないね。クッションの
上に横になって、毛布をかけて寝るだけ」


「そうなんですね」

 麻美は、中野さんに答えた。

「うちも、それでも良いんですけどね。ヨッ
トは、普通みな、シーツなんて敷かずに、そ
のまま毛布をかけて寝ますよね。寝るときだ
って、いちいちパジャマになんか着替えない
で、普段着のままですよね」

 隆は、中野さんに答えた。

「ええ、そんなことしたらクッションが皆の
汗で汚れちゃうじゃない。それに、シーツと
か敷いて寝なければ、寝てて気持ち悪いでし
ょう」

 麻美は、隆のパジャマを戸棚から出しなが
ら答えた。

「着るものだって、昼間着ていた汚れた衣服
よりも、ちゃんとパジャマに着替えた方がぐ
っすり眠れて良いでしょう」
「なんだそうです」


 隆は、麻美の言ったことをそのまま中野さ
んに伝えた。

「他のヨットがどうかは知らないけど、うち
は、ちゃんとシーツも敷いてパジャマに着替
えてから寝ましょう」

 麻美は、隆に宣言した。

「まあ、ヨット毎にそれぞれだから、それも
良いのでは」

 中野さんは、隆に返事した。

「うちの生活班長が、そう言うので、ラッコ
ではシーツ敷いて、パジャマで寝ることにな
ってしまいました」

 隆も、笑顔で中野さんに答えていた。

第114回につづく