岡田港

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第90回

 次の日の朝、隆たちは出航の準備に忙しく
していた。

 今日は、波浮から岡田に、大島の島を半周
して到着する予定だ。

「朝ごはんは、どうする?」

 麻美が、船内からデッキで作業している隆
に、声をかけた。

「出航してから、海の上で食べようか」

 麻美とルリ子は、船内で食事の準備を担当
していた。

 隆と雪、洋子、佳代で外の出航の準備を担
当していた。

 一番背は低いのだが、一番若くて身軽な佳


代が、岸壁に飛び移って舫いを外してくる。

 洋子は、パイロットハウスの入り口に立っ
て、船尾で舵を握っている隆と連携して、ア
ンカーを上げる作業を担当していた。
 アンカーを上げるための電動のスイッチが
パイロットハウスの操縦席に付いていた。

 雪は、右舷側のデッキに立ち、隣りに舫っ
ている海王とぶつからないように、船を押さ
えていた。
 左舷側に舫っているマリオネットと接触し

ないように、気をつけているのは洋子だ。
 洋子は、パイロットハウスでアンカーを上
げる作業と兼任していた。

「よし、離岸完了!」

 ラッコが無事、岸壁を離れて、今度はマリ
オネットが岸壁を離れる。

 最後に、岸壁を離れたのは、海王だった。

 海王の乗員は、大久保さんただ一人なので


海王の船尾にちょい付けしたラッコの船首か
ら飛び移った佳代が、舫いを外したり、アン
カーを上げるのを手伝っていた。

「佳代ちゃんじゃなくて、雪ちゃんか隆が手
伝いに行けばよかったのに」

 麻美が、海王で作業している佳代の姿を見
ながら、隆に言った。
 隆も、麻美に言われて、確かにそうだった
と思ってはいた。

 海王のアンカーは、ラッコのアンカーみた
いに、パイロットハウスに付いているボタン
を押すだけでは上がらなかった。
 電動でアンカーを上げる装置が付いていな
いので、手動でアンカーロープを引っ張り上
げて、海の底に沈んでいるアンカーを引き上
げなければならなかったのだ。
 身体の小さい佳代には、重労働のように思
えたのだった。

「意外に、佳代って力あるんじゃないのか」


 隆は、麻美に言った。

 佳代は、隆と麻美の心配をよそに、けっこ
う力強く頑張ってアンカーロープを引き上げ
ていたのだった。

「力あるんじゃなくて、佳代ちゃんってとて
も頑張り屋さんなのよ」

 麻美が答えた。

「私が行けば良かったね」

 雪が、麻美に言った。

 海王のアンカーが上がって、無事に海王も
離岸できた。
 離岸した海王に、ラッコが再度ちょい付け
して、佳代は再びラッコに戻って来た。

「岡田まで海王に乗っていってもいいぞ」

 隆が、戻って来た佳代に言うと、佳代は困
った顔をしていた。


「おじさん、一人の船で行くよりも、そっち
のほうが良いよな」

 大久保さんが、そんな佳代の気持ちを察し
て豪快に笑っていた。

第91回につづく