岡田、入港

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第91回

「針路を左へ取ろうか」

 いつもだと、大島の波浮を出て、東京湾方
面に向かうときは、右方向へ針路を取って、
大島を反時計周りで迂回していくのだが、今
回は、左から時計周りで大島を周ろうという
ことになった。

「元町の町だ!」

 大島を左方向に時計周りで周ると、昨日行
った元町の町を、海から眺められた。

 港のすぐ側のお土産などを買った小さな商
店街も、海から見えていた。

「昨日、ルリちゃんが、可愛いって言ってい
たワンピースを売っていたお店も見えるじゃ
ない」
「本当だ。おばさん、元気!?」


 お店の中にいるはずの店員までは、さすが
に海からでは見えなかったが、ルリ子は、昨
日、仲良くなったそのお店の店主のことを想
像して、お店に向かって、デッキ上から手を
振ってみせた。

「左からジェット船!」

 佳代が、ステアリングを握っている洋子に
向かって、熱海方向から元町港に走って来る
ジェット船のことを報告した。

「了解」

 洋子は、ラッコの針路を保持しながらも、
ジェット船が前方を横切るのを、注意深く気
をつけていた。

 ジェット船の船底には、スキー板のような
板が付いており、船体を海上に浮かせて、も
のすごいスピードで前方を横切っていた。

「速い!」


 熱海と大島の元町港の間を運航している定
期船のジェット船は、すごい高速で運航され
ている。

 ジェット船が走って行った後の海には、真
っ白い引き波が直線で残っていた。

 その引き波に向かって、ラッコやマリオネ
ットが突っ込むと、船が縦に横に大きく揺ら
れていた。

 そのまま、元町の町を右に見ながら、大島

の先の突端へと回り込む。
 その突端の先に、岡田の港が見えてきた。

 元町の町がある辺りは、海から見ると平地
になっていたが、岡田の港の周囲には、緑の
断崖になっていて、その下のところに港だけ
がポツンと凹んで在った。

第92回につづく