北の風

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第115回

 マリオネットは、来週のクラブレースを少
し頑張ってみようかなと思っていた。

 なにしろ横浜マリーナの全艇のうち、今の
ところ27位なのだそうだ。

 ラッコのキャビン内での夜の宴会で、ルリ
子に今年の通算のレース結果が、27位だと

聞いて、少しレース欲が出てきたみたいで、
上位を狙ってみたいと思ったのだった。

 だが、来週のレースの前に、勝山から横浜
横浜マリーナに戻らなければならない。

「おはよう」

 翌朝、中野さんは起きてデッキに出ると、
ラッコのデッキ上で話していた隆と洋子に声
をかけた。


「おはようございます」
「今日の風はどうかな?横浜まで戻るのに最
適な風かな」

 中野さんは、背伸びして港の外の海を眺め
ながらつぶやいた。

「だめみたいですね。真北の風ですよ」

 隆も一緒に、海を眺めながら言った。

 勝山は、千葉の房総半島、内房の中央より

やや下に位置する。

 そこから横浜マリーナのある横浜に戻るに
は、北に向かって東京湾を北上していかなけ
ればならない。

 9月、10月の東京湾の風は、よく強い北
風が吹く。その中を北上するには、風に向か
って正面に行かなければならないのだ。

「朝ごはん、出来たよ」


 キャビン内から麻美が顔を出して、デッキ
の皆を呼んだ。

 ラッコの乗員だけでなく、マリオネットの
乗員たちも、ラッコのキャビン、サロンに集
まって朝食になった。

「真北の風だから、前からぴゅーぴゅー冷た
い強い風が大変だぞ」
「合羽を着用しておいたほうがいいかな」

 皆は、出航前に、しっかりヨット用の雨合

羽を着用した。

 ヨット用の雨合羽は、濡れても、水が体内
に入って来ないように、しっかり防水仕様に
なっている。
 オーバーオールになっているボトム、ズボ
ンを着て、さらに上にフードの付いた合羽を
着用する。
 靴も、防水仕様のヨット用ブーツだ。

「ルリちゃん、似合うじゃない。かわいい」


 全身、完全防備で、まるで着ぐるみを着て
いるような姿になったルリ子を見て、麻美は
思わず笑顔で笑ってしまっていた。

 佳代は、手が背中に届かなくて、うまく合
羽が着れずにいたので、麻美が後ろから着用
を手伝ってあげていた。

「出航するぞ!」

 同じく完全防備の隆が、ラッコのステアリ
ングを握りながら、皆に声をかけた。

 アンカーを上げて、港を出て、北風吹く少
し荒れぎみの海の中に、ラッコとマリオネッ
トは港を出ていった。

第116回につづく