念願のマイヨット
念願のマイヨット

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第10回

 そのヨットは横浜に上陸した。

 フィンランドの小さな田舎町で建造された
モーターセーラータイプのヨットだった。
 モーターセーラーとは、普通のヨットに比
べて比較的大きな馬力のエンジンを積んでい
て、船内、キャビンの中にも操船ができるハ
ンドル、ステアリングラットが装備されてい

るヨットのことだ。

 風が吹いているときは風を利用してセイル
で走るが、風が吹いていないときには、エン
ジンでも走れるというオールマイティなヨッ
トだ。

 フィンランドにあるナウティキャットとい
う造船所で建造された全長33フィートのヨ
ットだった。

 船内の内装は、ある程度のレイアウトはあ


るが、一艇ずつカスタマイズで建造すること
ができて、オーナーの隆の要望でいろいろと
オプション装備が施されていた。

 建造中の間は、隆自身もフィンランドまで
行って、どんなふうに建造されているかチェ
ックしていた。
 そのヨットがようやく完成して、貨物船に
積まれて日本までやって来たのだった。

 ナウティキャットは日本には販売窓口がな
く、隆は個人輸入の代行業者に頼んでコンテ

ナに乗せてもらって運んで来たのだった。
 ヨットの場合、外国で建造されたものを、
専門の業者を使わずに、個人輸入で輸入され
ている方もけっこう多かった。

 外国の造船所と直接やり取りして、ヨット
を発注するので、英語がわからないとなかな
か個人輸入では発注しにくい。隆の場合、麻
美という英語に強い人間が側にいたので、そ
の点は助かっていた。

 マストと船体がバラバラの状態で、大きな


コンテナの中に入って運ばれてきたヨットは
横浜港でコンテナから開封されて税関を通っ
てから、大型トラックに乗ってマリーナにや
って来た。

 その日の朝早くから、隆は麻美といっしょ
にヨットがやって来るのをマリーナのクラブ
ハウスで待っていた。
 大きな白い船体がマリーナの道の向こうか
ら近付いてくるのが見えると、隆と麻美はク
ラブハウスから飛び出して出迎えた。

「大きいね」
「トラックに乗っているせいかな、造船所で
見た時よりも大きく見えるな」

 二人は、やって来たヨットの大きさに感激
していた。

 その白い船体は、新艇らしく全体にまだビ
ニールがかけられていた。
 まだ中を一度も見ていない麻美は、早く船
内を見てみたかったのだが、まだ二人は乗る
ことができなかった。


 これから作業員の方が、船体にかけられた
ビニールを剥がして、マストを立ててデッキ
周りの装備を装着するのだ。

 隆や麻美がヨットに乗れるのは、それらの
作業がぜんぶ終了してからだ。

 まだ作業に数時間はかかりそうだ。二人は
ワクワクしながら作業員たちが作業している
様子を眺めていた。

第11回につづく