望月先生

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第104回

 ラッコは、セイルトレーニングを終えて横
浜マリーナに戻って来た。

「フェンダーを用意して。ポンツーンに左舷
側でつけるから」

 隆は、ステアリングで舵を取りながら、洋
子たちクルーに指示をした。

 横浜マリーナの岸壁にあるポンツーンに船
を停めて、そこで今日はお昼ごはんにしよう
というのだ。

 横浜マリーナには、水面係留しているボー
ト、ヨットと上架して陸上の艇庫に保管して
いるボート、ヨットがある。

 水面係留しているボート、ヨットは、お昼
を食べたりするときも、いったん自分のバー
スに戻り、そこに停めて食べるが、隆たちの
ラッコのように艇庫保管しているヨットは、


海上に自分たちの専用バースがないので、そ
ういった船たちが、お昼の食事するときには
ゲスト用のポンツーンを利用していた。

「前のもやいをもう少しゆるめて」
「後ろ側は、もっと引いて」

 隆たちが、ラッコを、ロープでポンツーン
に停めていると、マリオネットや暁など、ほ
かの出航していたヨットたちも、マリーナに
戻って来た。

 彼らたちも、お昼ごはんを食べるため、ポ
ンツーンに停めるのだ。

 先に停め終わった隆たちラッコのクルーは
後からやって来たマリオネットたちのもやい
をポンツーン側から取ってあげている。

 横浜マリーナのポンツーンが、お昼に戻っ
て来たヨット、ボート全てが停められるほど
広いポンツーンだったら良いのだが、それほ
どまでは広くない。


 船の大きさにもよるが、ゲストバースは、
だいたい4、5艇が停まるといっぱいになっ
てしまう。

 いっぱいになってしまった後で、戻って来
たヨットは、ポンツーンには停められないの
で、既にポンツーンに停まっているヨットに
横付けして二重、三重に停めている。

「ラッコさん、いいかな?」
「どうぞ。もやいを取りましょう」

 後から戻って来た暁が、ポンツーンに停め
ているラッコの横に停める。

 ラッコのクルーたちは、暁のもやいロープ
を取ってあげて、自分たちのヨットのクリー
トに結んであげる。

 雪は、洋子と佳代が暁のもやいロープを受
け取って、クリートに結んでいるのを見て、
少しホッとしながら、黙って暁の船体がラッ
コの船体に当たらないように押さえる側に回
っていた。


 もちろん、ルリ子も、舫いロープを自分が
受け取らなくて良くなったことにホッとはし
ていたのだが。
 そこは、ひょうきん者のルリ子だけあって
雪のように黙って船体を押さえる側に回るの
ではなく、

「良かった!私に舫いロープが渡されて来な
くて」

 と、望月さんや隆に聞こえるぐらい大きな
声ではしゃいでいた。

「そうか、良かったな。でも、後で、ちゃん
と結べるかのテストはしてやるからな」

 はしゃいでいるルリ子に望月が言った。

「ええ、テストですか?」
「ああ、もうしっかり舫いぐらいは結べるよ
うになったのだろう?」
「ええっと・・。大丈夫です!結べます」

 ルリ子は、笑顔で望月に答えていた。


「おお、で、雪はどうだ?もやいをしっかり
結べるようになったのか?」

 望月さんは、ラッコのコクピットでお昼ご
はんを食べていた雪に声をかけた。
 うまく隆のかげに隠れて望月からすり抜け
られたと思っていた雪は、バツが悪そうだ。

 雪は、先週、もやい結びを教えてもらって
からは、望月にすっかり名前まで覚えられて
しまっていた。

「大丈夫よね、もうすっかり出来るから。今
日、タックもさんざん練習して出来るように
なったんだから」

 雪が答えづらそうにしているので、代わり
に麻美が、望月に答えた。

「そうか。麻美さんの太鼓判があれば、もう
大丈夫だな」

 望月さんは、笑顔で言った。


「うん。麻美よりは、うちのどのクルーもヨ
ットが上手になっているよ」
「そうだね」

 麻美は、そう言った隆の頭を軽く小突いて
みせながら、笑顔で笑った。

第105回につづく