元町港

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第87回

 元町行きのバスがやって来た。

 元町といえば、横浜ならばチャーミングセ
ールが有名な商店街だが、ここ、大島で元町
といえば、大島の中心地、役場や商店街など
が軒を連ねる場所だった。

 熱海から直行のジェット船も出ていて、島

で一番栄えている町だった。

「そうなんだ」

 隆が、そのことを洋子たちクルーに話すと
クルーたちは、島で一番栄えている町と聞い
て、ビルが立ち並んでいる町を想像してしま
っていた。

「おお、バスが来た!」

 隆たちは、波浮港のバス停にやって来た元


町行きのバスに乗った。

 バスは、波浮港のちょうど中央付近にある
港の公衆トイレの前にあるバス停から出てい
る。

「ちょうど良かったね」

 ラッコとマリオネットは、港の公衆トイレ
の目の前の岸壁に空きを見つけて、そこに停
泊していた。

 おかげで、すぐ目の前がバス停なので、バ
スが来るぎりぎりまでヨットでゆっくりして
いられたのだ。

「うわ、トイレのすぐ目の前だよ」

 停泊したばかりのときには、目の前に公衆
トイレがある場所に、ルリ子も、麻美までも
が、トイレの前ってちょっと嫌がっていたの
だったが、バス停も、目の前だったのはラッ
キーだった。


 隆だけは、公衆トイレの前に停めたことも
トイレに行きたくなったら、すぐに行けるか
ら便利だろうと、皆に話していた。

 麻美は、ラッコの船内にちゃんとトイレ付
いているのに、なんでわざわざ港の公衆トイ
レを利用しなければならないのか、隆の言葉
を理解できなかった。

 当然、隆たちの乗っているヨットには、船
内には立派なトイレは付いているのだが、ヨ
ットのトイレは壊れやすい。

 壊れると、汚物などを排水できなくなって
しまうので、停泊しているときなどには、あ
まり船内のトイレは使わないというのが、ヨ
ットマンの暗黙のルールになっていた。

 そのため、港の公衆トイレは、レジャーで
やって来たヨットマン、ボートマンたちの利
用者で、けっこう賑わっていた。

「次は、元町、元町です」

 バスのアナウンスが告げた。


「ここが元町?」

 元町は、確かに波浮よりは、多少大きめの
商店街は、あったが、隆が、あまりにも、元
町は、島で一番栄えている場所とクルーたち
に言いすぎたせいか、クルーたちの想像して
いた元町の町とは、ギャップがあり過ぎたよ
うだった。

第88回につづく