大きな病院へ

ある日、突然どうやってもおしっこが出なくなった・・とてつもなく巨大なアレ- 前立腺肥大症 -との3ヶ月間にわたる大闘病記。

 やっと私の順番がやって来た。

「もう-!なんでそんなに時間かかるんだ!
早くしろよ!」

 自分の順番を待っている間、ずっと早く診
ろとイライラしながら待っていた・・わけで
はなかった。
 いや、そのぐらいイライラするぐらい元気
があれば良かったのだが、もうお腹が痛くて
身体がフラフラで、そんなイライラする元気
もぜんぜん残っていなかった。

 待っている時間、おそらく時間にして30
分ぐらいのことだったのだろうが、その間、
私はずっと奥の医務室のベッドで横になり、
起き上がることも出来ずにお腹を抑えて眠っ
てしまっていた。

「あ-、確かにお腹が張っていますね」

 順番がやって来て、奥のベッドで眠ってい
る私のところにやって来た医師は、私のお腹
の下半身辺りを触りながらつぶやいていた。


「これは、ここでは診察できませんので、紹
介状を渡しますから、すぐ近所の大きな病院
に行って、そこで診てもらってください」

 医師にそう言われて私は、看護師から茶封
筒に入った大きな病院への紹介状を受け取っ
て、区役所の前の内科クリニックから追い出
された。
 このまま大きな病院へ行けと言われても、も
うお腹が苦しくて歩けそうもない。

「大きな病院ってどちらですか?」

 私は、なるだけ、ここから遠くではないと
いいなと思いながら、受付の看護師に病院の
場所を聞いた。

「心配しなくても大丈夫ですよ」

 看護師は、そんな不安な私の気持ちを察し
てくれているのか親切に答えた。看護師に連
れられて、上がってきたエレベーターに乗る
と、1階の入り口のところに降ろされた。


 そこの脇にある駐車場に1台のタクシーが
停まって待機していた。病院の人が予め呼ん
でくれていたらしい。

「病院は、ここから車で10分もしないとこ
ろですから」

 私は、タクシーに乗せられて走り出した。

 と思ったら、もう病院についていた。

 その大きい病院というのは、駅前の、よく
乗る電車の中からもいつも見ている道路と道
路の間に挟まった三角形の敷地に建てられた
三角形の病院だった。実際には建物自体は四
角い形をしているのだが、道路と道路に挟ま
れた三角の角っこの敷地に建っているため、
なんとなく建物自体も三角形の建物にみえる
病院だった。

 タクシーから降りると、既に区役所の前の
内科クリニックから連絡を受けていたのだろ
う、看護師が1人立って待っていた。


 緊急外来の医務室の中に案内された。そこ
の医務室のベッドに寝かされると、すごく若
い医師の先生に声をかけられた。うすい青色
の医師の服を着たすごく若々しいお兄さん先
生だった。

「お腹がすごく張っている。CTでレントゲ
ンを撮ってみましょう」

 若い医師の指示を受けて、若い看護師がC
Tの手配のために医務室を出て行く。

 若い看護師が部屋を出て行くと、医務室の
ベッドの上で仰向けに寝て、真上の真っ白の
天井を眺めている私の耳に、奥のデスクに設
置してある電話で話している若い医師の声が
聞こえた。

「そうですね、単位が足りなくなってしまう
かもしれないですよね。次の研修も受けます
ので・・」

 おそらくその若い医師は、大学の研修医か
なにかなのだろう。


 電話の相手との話では、しきりに自分の授
業の単位のことについて気にしていた。お医
者さんになるために、すごい頑張って勉強し
ているんだな、そんなことを考えながら、ベ
ッドに寝ていると、CTの手配が済んだので
あろう、部屋を出て行った看護師が、また戻
ってきた。

「これからレントゲンを撮りますからね」

 看護師に言われた。私は、ベッドに寝かさ
れたまま、ベッドのタイヤのストッパーを外

されベッド毎、CT室まで移動させられた。

 ベッドは仰向けに寝かされている私毎、移
動して医務室の外、廊下を進んでいく。仰向
けの私には、移動していく真っ白の天井しか
見えていない。
 扉の開く音がしてエレベーターに乗せられ
扉が閉まり、また開いてベッドは廊下を進ん
でいく。

 おそらくCT室の扉だろう。扉が開いて、
中へと入った。


中に入ると、CT用のベッドの真横に、私が
仰向けに寝ているベッドは並べられた。

「レントゲンを撮るので、隣のベッドに移動
しますね」

 看護師は、私の寝ているベッドと隣のベッ
ドの間にスライドと呼ばれる板を敷いて、そ
の上を転がすようにして私の身体を移動させ
ようとしていた。自分で立ち上がって自力で
隣のベッドに移動するぐらいは出来る。
 なんとなくこのまま看護師に持ち上げられ

て移動させられたのでは、まるで自分が重症
患者になってしまうような気がして、私は自
ら自分の力でベッドから起き上がった。
 そして、隣のベッドに必死の思いで自分の
身体を移動した。

「あ、ちゃんと自分で移動できますか」

 自分でベッド間を移動した私の姿をみて、
看護師がかけてくれたその言葉を聞いて、な
んとなくあなたは重症患者ではない、ちゃん
と自分で出来ますねと看護師に褒めてもらえ


た気がして嬉しかった。
 CT用のベッドに横になると、ベッドは丸
いCTの中に挿入され身体の中を撮影した。

「はい、息を止めて下さい。吸って、吐いて
吸って、はい・・」

 部屋の外からマイクの音を通して聞こえる
指示されるレントゲン技師の声にあわせて深
呼吸する。CTの装置が動いて、レントゲン
撮影が終わると、また来るときに乗せられて
いたベッドに移動して、看護師にベッドを押

されてCT室を出ると、また廊下を通ってさ
っきまでいた緊急外来の部屋に戻ってきた。
 そこでは、さっきの若い医師が私の帰りを
待っていた。若い医師の手には、私の体内を
撮影したレントゲン写真があった。
 そのレントゲン写真を私に見せると、

「ほら、こんなに大きくなっているよ」

 若い医師は、私に告げた。

「前立腺肥大症」につづく