前立腺肥大症

ある日、突然どうやってもおしっこが出なくなった・・とてつもなく巨大なアレ- 前立腺肥大症 -との3ヶ月間にわたる大闘病記。

「ほら、こんなに大きくなっているよ」

 若い医師は、私に告げた。若い医師に見せ
られた私のレントゲン写真には、何かはよく
わからないが大きな白い塊が写っていた。そ
れは前立腺と呼ばれるものだそうだ。それが
大きくなって巨大化しているのだった。
 そいつがおしっこの出口を塞いでしまって
いて、おしっこが出れないのだそうだ。その
ために、お腹の中に貯まってしまっているお
しっこがお腹を張らせていて、お腹が苦しい
のだという。

「クダを通して、お腹の中に貯まったおしっ
こを抜いてしまいましょう」

 若い医師は、私に説明した。

 クダを通すという意味も、おしっこを抜く
という意味も、医学の知識が無い私にとって
は、その厳密な意味が具体的にどうなるのか
よくわからなかったが、いまはお腹の苦しみ
さえ無くなってくれれば、それで良かった。
 ともかく、お腹の痛みをなんとかしてもら
いたかった。


 要するに、おしっこが出る出口の辺りには
前立腺と呼ばれる臓器の一種があって、それ
がなんだかの原因で巨大化してしまって、お
しっこの出口、尿道を塞いでしまっているの
だそうだ。
 尿道を塞がれてしまったために、おしっこ
は身体の中から外に排出できなくなってしま
い、大量のおしっこが身体の中に閉じ込めら
れてしまったために、お腹が苦しくなってし
まったのだ。
 この病気のことを「前立腺肥大症」と医学
用語で呼んでいるらしかった。

 看護師が、カテーテルと呼ばれている細い
プラスチック製の管、ゴムホースみたいなも
のを私の尿道に通してくれた。

「もう少し細いクダでないと通らないかもし
れない」

 看護師は、クダを必死で私の尿道に通そう
としながら、若い医師に言った。若い医師は
看護師からクダを受け取ると、それをちょい
ちょいと操作すると、私の細い尿道の中にあ
っという間に通してしまった。


 若い研修医なのかもしれないが、なかなか
医療技術高いじゃん。先生、やるじゃんって
感じだった。

 若い医師が、クダを私の尿道の中に通すと
クダの内側の穴を通って、私の身体の中に貯
まっていたおしっこは、クダの外に流れ出て
きた。と同時に、これまで苦しかったお腹の
腹痛がまるでうそのようにみるみるうちにス
ッキリしてきた。

「なんか急にすごく元気になったです!」

 私がベッドから起き先生に伝えると、

「それはそうでしょう。ほら、2リットル以
上のおしっこが身体の中にずっと貯まってい
たんですから!これだけ全部外に出てきたら
スッキリするでしょう!」

 若い医師は、笑いながら私に身体の中から
流れ出てきたおしっこが入った袋を見せてく
れた。クダの先っぽに付いたビニールの袋に
は、私のお腹に貯まっていたらしいおしっこ
が、いっぱい溢れていた。


 私の尿道の中を通ったクダの先っぽに、そ
のおしっこが貯まった半透明の袋は付いてい
て、クダを通して流れてきたおしっこが、そ
の袋の中に貯まるようになっていた。

「なんか、さっきまでのお腹が痛いのがうそ
のようにすっかり治りました!」

 私は、先生に御礼を言った。
 でも、もし身体の中に通っているクダを抜
いたら、またおしっこは身体の中に貯まって
しまうのではないか。

 そうすれば、また貯まったおしっこのせい
でお腹は痛くなってしまう。かといって、今
通してもらっている病院のクダを抜かずに、
おうちに帰るわけにもいかないだろう。私は
どうしたら良いのか迷っていた。

「今日は、病院で一日泊まって様子をみてか
ら入院しましょうか」

 若い医師に言われた。泌尿器科の先生は、
きょうは病院に来ていないらしく明日の午前
中に来るのだという。


 だから明日までお腹の様子もみながら入院
していきなさいと言うのだ。

「入院って、もうこんなに元気ですが・・」
「見かけは元気でも、身体の中までなんとも
ないかはわからないし」

「このまま家に帰して、帰った後でなんかあ
っても、こちらでも責任取れません」

 若い医師、先生はそう言って入院の手続き
をされてしまった。

 看護師が私の腕に点滴を付けて、点滴のぶ
ら下がったキャスターの付いたスタンドを転
がした。
 私は、点滴のぶら下がったキャスター、ス
タンドと一緒に転がされながら、エレベータ
ーに乗せられて上階の入院棟へと移動させら
れていた。

「なんか、本当はもうぜんぜん元気なんです
けど・・」

 私は、病室に移動中、横に一緒についてく


れている看護師に文句を言った。

「見た目的には元気に見えても、あれだけ腹
痛があったのですから1日ぐらい入院して様
子をみたほうが良いです。」

 看護師にそう諭され上階の病室に入った。

 病室は、広いワンルームの部屋で、中には
ベッドが4つ並べられていた。それぞれのベ
ッドは細長い木製のキャビネットで仕切られ
ていて、それぞれのベッドに寝ている患者さ

んたちのプライバシーが保たれるようになっ
ていた。

 それぞれのキャビネットの手前には、キャ
スター付きのデスクがあって、デスクの上に
はテレビが載っかっていた。デスクの下段に
は小さな冷蔵庫も完備していた。テレビも、
冷蔵庫もプリペイドカード式で入院棟入り口
の談話室に在る自動販売機でプリペイドカー
ドを購入して見られるようになっていた。
 私は、どうせ一泊しかするつもりはなかっ
たので、テレビも冷蔵庫もプリペイドカード


は購入するつもりはなかった。
 一番窓側のベッドに連れていかれ、今夜は
そこで一泊することとなった。

 部屋には4つベッドが在るというのに、ほ
かの3つは空いており、今夜は、この広い部
屋に私一人しか泊まらないみたいだった。

「はじめての入院」につづく