海王と出会った

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第88回

 隆たちは、元町から波浮にバスに乗って戻
って来た。

 元町から波浮までの道のほとんどは、山の
中を通っているが、ときおり林の隙間から海
が見えるところもあった。

 その林を抜けると、海が一望できるところ

に出た。

 隆たちが、海を眺めている間に、バスは海
沿いの道をぐるっと回り込むと、眼下に波浮
の港が見えてきた。

「うわ!ここから港が全部見えるね」
「ラッコが停泊しているのが見えるよ!」

 視力が2・0の佳代が一番最初に港に停ま
っているラッコの船体を見つけた。
 皆は、バスの窓から波浮の港を見下ろして


いた。

「あれ、海王じゃないか?」

 隆は、ラッコの左側に停泊しているヨット
を見つけて言った。ラッコの右側には、マリ
オネットが停まっていた。

「確かに、海王に似ているかも」

 海王とは、ラッコと同じ横浜マリーナに停
泊しているヨットだ。

 名前のとおり、海王は、以前は36フィー
トのレース艇だった。
 東京湾で開催されるヨットレースには、常
に参戦しており、いつも上位、1位をとって
いるすご腕のヨットレーサーだった。

 今は、オーナーは、年をとってしまったと
かで、レースは卒業してクルージングに専念
することにしたのだとかで、36フィートの
レース艇は売ってしまい、代わりに台湾製の
木造クルージングヨットを建造し、そのヨッ
トに買い換えてしまっていた。


 木造といっても、実際に木部を使用してい
るのは、内装材だけで、船体はFRPという強
化プラスチックで建造されている。

 バスは、波浮の港に到着して、隆たちはバ
スから降りた。

「おかえりなさい」

 バスを降りた隆たちを出迎えてくれたのは
海王のオーナーだった。

「あ、こんにちは」

 やっぱり、バスから見えていた右隣りに停
泊していたヨットは、海王だった。

第89回につづく