ランチタイム

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

「いただきます」

 お昼の時間が、やって来た。

 食堂での校長先生の挨拶が終わり、ゆみも
シャロルも、お弁当を広げて、お昼ごはんを
食べ始めた。
 前の席では、マイケルも食事している。学
校の生徒皆、いまの時間は、お昼のランチタ
イムを談笑しながら楽しんでいるのだった。
 ゆみも、シャロルとおしゃべりしながら、
サンドウィッチを食べていた。

 食べながら、ふと、シャロルと反対側の横
に座っている良明の姿を見ると、良明は、お
弁当も食べずにバッグを抱えて座っていた。

「良明君、お弁当食べてもいいんだよ」

 ゆみが声をかけたが、良明は、バッグを抱
えたまま座っているだけだった。

「今日は、お弁当持って来たよね?持ってこ
なかったの?」
「うん」


 良明は、ゆみの質問に首を縦に振って頷い
ていた。

「え、朝はお弁当持っていたじゃないの」

 良明は、今度は首を横に大きく振って否定
した。ゆみは、訳わからなくなった。

「お弁当置いてきてしまったの?」

 ゆみは、勝手に良明のバッグの中身を覗き
込んだ。そこには大きなお弁当箱があった。

「あるじゃない!」

 ゆみは、良明のバッグから、そのお弁当箱
を取り出して、テーブルの上に置いた。

「どうぞ」

 ゆみは、良明のテーブルの前に、お弁当を
置いて言った。
 良明は、チラッとゆみの方を見たが、お弁
当には、一口も口をつけない。


「どうしたの?食べないの」

 ゆみは、心配して良明に聞いた。お腹でも
壊して痛いのかと思ったのだ。
 良明は、それでも黙って、バッグを抱えて
椅子に腰掛けているままだった。
 ゆみには、どうして良明がお弁当箱を開け
て食べないのかよくわからなかった。
 ゆみは、自分の分の残りのサンドウィッチ
を食べてから、もう一度良明を見た。
 良明は、まだお弁当箱には、手も振れずに
座った姿のままだった。

 ゆみは、良明のお弁当箱にどんなお弁当が
入っているのか気になった。

「ね、このお弁当箱を、あたしが開けてもい
いかな?見たいの」

 良明は、ゆみの質問には何も答えずに、黙
ったままだったので、ゆみは思い切って、彼
のお弁当箱を勝手に開けてしまった。
 日本式にお米にノリがのって脇に鶏肉や野
菜などが入ったお弁当だった。


「美味しそう♪」

 ゆみが言うと、シャロルも覗き込んで良明
のお弁当を見た。

「ワオ!ジャパニーズスタイル!食べたこと
ないからわからないけど、すごく美味しそう
にみえる!」

 シャロルは、良明の弁当を覗き込んで叫ん
だ。

「ね、美味しそうよね」
「なんていうお料理なの?」
「これが鳥、チキンの揚げ物でお芋の煮っ転
がしで、温野菜…」

 ゆみが、日本の料理をしらないシャロルに
説明してあげた。

「ゆみも作れるの?」
「うん。たまに作ってきてるでしょう」
「そうだね、ジャパニーズスタイル」


 シャロルは、ゆみに言った。

「良明は食べないの?」
「うん。食べないみたいなの」
「じゃ、あたし食べてみたいな」

 ゆみは、良明にシャロルが日本のお料理食
べてみたいんですって、と説明した。

「食べさせてあげてもいい?」

 良明は、黙って頷いた。

 ゆみは、お箸で一個おかずを取るとシャロ
ルに上げた。

「これ、美味しい!」

 シャロルは、ゆみからもらったお芋の煮っ
転がしを食べて言った。

「そっちの鳥?チキンも食べてみたい」

 シャロルが、ゆみに鶏肉の試食も催促して
いた。ゆみが良明の顔を覗き込むと、良明は


黙って首を縦に振って頷いたので、鳥もシャ
ロルに上げた。

「美味しい♪日本の料理って美味しいね」

 あんまりにシャロルが美味しそうに食べる
ので、ゆみも食べてみたくなった。

「あたしも食べてみたいな」

 ゆみは、良明に言った。良明が静かに頷く
のを確認して一口食べさせてもらった。

「美味しい。あたしがいつもお兄ちゃんに作
る日本料理よりも美味しい」

 ゆみは、思わず口にした。

「あたしも、もっと食べたい」

 今度は、シャロルが自分でお箸を使って良
明のお弁当箱からおかずを取って食べた。シ
ャロルは、ゆみから教わってお箸は上手に使
えるのだ。


「すごく美味しいから無くなちゃうよ」

 ゆみは、二人が食べてしまっておかずが少
なくなったお弁当箱を見て、良明に言った。
 それでも良明は黙って座ったままだった。

「お母さんがせっかく作ってくれたんだから
食べようよ」

 ゆみは、お箸で鳥肉を挟むと、良明の口元
に持っていて差し出した。
 良明が顔を少し反らせたが、ゆみがさらに

口元に鳥肉をもっていったら、良明の口が少
し開いた。
 ゆみはそのまま良明の口の中に鳥肉を放り
込んだ。良明は、口の中に入った鳥を食べる
しかなかった。

「美味しいでしょ?」

 ゆみは、良明に言った。

 良明は、ちょっとだけ頷いた。ゆみが、さ
らに今度は野菜を箸で取って、良明の口元に


持っていった。
 良明のちょっとだけ開いた口の隙間から野
菜を入れる。今までぜんぜんお弁当を食べな
かった良明なのに、ゆみが箸で口元に持って
いて上げると、しっかり食べてくれた。

「ゆみ、何をやっているの?良明君は赤ちゃ
んじゃないんだから」

 その姿を見て、シャロルが笑った。

「夕食」につづく