お弁当作り

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

「お兄ちゃん、日曜に野球のアンパイヤする
の?」

 ゆみは、その日の晩の夕食のとき、会社か
ら帰ってきた隆に聞いた。

「うん。ヒデキか誰かに聞いたのか?」
「うん。あたし、シャロルと一緒に、良明君
の応援に行くの」
「あ、そうなんだ」
「お昼は、シャロルと良明君の分のお弁当作
って、持っていてあげるんだよ」

「じゃ、俺の分も作ってきてよ」
「ええ、お兄ちゃんのも作るの」

 ゆみは、苦笑いした。

「ゆみは、日本とアメリカのどっちのチーム
を応援するんだ?」

 次の日曜の野球の試合は、ヒデキたちの日
本人チーム対アメリカ人チームだ。

「良明君のいるチームのほう」


「シャロルもか?」
「うん。もちろん」

 日本人チームは、良明やヒデキ、椎名など
いつも公園で集まって、野球をしている日本
人の子供たちの中から選抜されたチームだ。
 アメリカ人チームというのは、竹村君とい
う日本人の子が、自分のクラスの仲の良い野
球好きのアメリカ人の子たちと一緒に組んだ
チームだ。

 竹村君は、日本人なのだが、土曜だけの日

本人学校にも通っていない。
 といっても、ゆみのようにニューヨークで
生まれ、ずっとニューヨークで暮らしている
というわけではない。
 日本人の子がいつも集まって、遊んでいる
場所にも来ないで、いつも学校でも、クラス
のアメリカ人の子たちと一緒に、遊んでいる
日本人としては少し変わった子だった。
 竹村君は、日本人の子たちが皆、公園に集
まって遊んでいることは知っている。
 のだが、あえて、その中の仲間には入らず
に、アメリカ人の子たちと仲良くして遊んで


いるのだった。
 野球をするときも、アメリカ人の子たちと
組んで遊んでいる。
 それで、ときどき日本人チームのヒデキた
ちに、試合をしようと申し込んでくるのだ。

 シャロルのうちは、ゆみの家からだと、学
校をはさんで向こう側にあった。
 だから、いつも学校が終わって帰るときも
シャロルとは、帰り道が逆さまになってしま
うため、一緒に帰れないのだ。

 日曜の野球の試合は、学校のすぐ脇にある
公園のグランドで行われる。
 最初、ゆみとシャロルは、別々に公園に応
援しに集まるつもりだった。
 でも、金曜のお昼に、ゆみが、日曜は皆の
お弁当を作ってから行くって説明したら、シ
ャロルも、ゆみの家に来て一緒に作るってこ
とになったのだった。

ピンポーン!

 日曜のお昼前、シャロルが、ゆみの家にや


って来た。

「おはよう」

 ゆみが、玄関のドアを開けると、シャロル
が挨拶しながら入ってきた。

「おはよう」

 ゆみも、学校でなく、週末に、シャロルと
会えるのが嬉しくて、笑顔で出迎えていた。

「お兄ちゃんは?」
「もうお出かけしちゃった」

 二人は、台所に行くと、お弁当用のお料理
を作り始めた。

「なに、それ」

 シャロルは、ゆみが開けた炊飯器のご飯を
覗き込んで聞いた。
 アメリカ人のシャロルには、炊飯器が珍し
かった。おにぎりは、学校のお昼に、ゆみや


ヒデキが時々持ってくるので知ってはいたが
まさか、こんな機械で作るとは思ってもいな
かった。
 ホクホクと湯気をたてているお米を、もの
めずらしそうに、つまんで食べた。

「おにぎり、ライスボールを作るの」
「これでライスボールって作れるんだ」

 シャロルは、ゆみからおにぎりの作り方を
聞いて、驚いていた。

「この白いの、ヒデキ君がよくお昼に食べて
いるやつよね」

 シャロルも、出来上がったおにぎりの姿は
よく知っていた。学校のお昼ごはんのときに
ヒデキが銀色のアルミホイルに包まれたおに
ぎりを食べながら、歩いていたからだ。

「ヒデキ君が食べるのは見たことあるけど、
私がおにぎり作るの初めてだよ」
「そうね」


 シャロルは、ゆみに教わりながら初めて作
るおにぎりが楽しかった。
 最初は、丸くならなかったシャロルのおに
ぎりだったが、だんだん上手になってきて、
丸いおにぎりも握れるようになってきた。
 うまく握れるようになってきて、シャロル
は、おにぎり作りが楽しくなってきた。

「あたしも、今度この機械をお母さんに買っ
てもらって、家でも作ってみようと」
「うん、炊飯器はマンハッタンの日本のデパ
ートに行けば売っているよ」

「そしたら、あたし学校のお昼ごはんが毎日
おにぎりになるかも」

 二人がおにぎりを握っていると、メロディ
がキッチンに入って来た。

「うん、メロディ」

 シャロルは、手でおにぎりを握っているた
め、足でメロディを撫でてあげた。
 シャロルは、もう何度も、ゆみの家には来
たことがあるので、メロディともすっかり顔


馴染みだった。メロディは、シャロルの指に
付いたおにぎりの具を飛び上がってなめた。

「あ、ノー。メロディ」

 ゆみは、それを見てメロディを叱った。ゆ
みが叱った後は、メロディは、ちゃんとお座
りしたまま、静かに、二人がお弁当を作って
いるのを眺めていた。

「メロディは、いつもいい子だね」

 シャロルは、それを見て、メロディのこと
を褒めてあげた。

「たまに、悪いことするときも、あるんだけ
どね」

 ゆみも、メロディを撫でてニッコリした。

 二人が、お弁当を作り終えたら、おかずの
鮭が少し余ってしまった。

「メロディ、食べる?」


 ゆみは、メロディの方を向いて聞いた。メ
ロディは、尻尾を振って答えた。

「あたしがあげてもいい?」

 シャロルは、ゆみに聞いた。ゆみは、うん
と頷いた。シャロルは、余った鮭を少しずつ
ぜんぶメロディに食べさせて上げた。

「出かけようか」

 ゆみは、自分の部屋に行って、カーディガ

ンを取ってくると、シャロルに言った。
 シャロルは、出来上がったお弁当を、バス
ケットに丁寧に詰め込んでいた。

「あたし、持って行くよ」

 シャロルは、お弁当の入った大きなバスケ
ットを、ゆみに代わって持ってくれた。

「ありがとう♪」

 ゆみは、シャロルに言った。


 シャロルは、体のあまり強くないゆみに代
わって、いつも大きな荷物や重たいものを持
ってくれていた。
 学校でも、理科の実験の道具とか、大きな
荷物をよく持ってくれていた。

 ゆみは、玄関の鍵をかけて、肩から提げた
小さなポーチにしまう。
 二人が、アパートメントの廊下をエレベー
タの方に歩いていくと、前からエレベータの
ドアが開く音がした。
 それと同時に、ゆみには、聞きなれた犬の

鳴き声が前からしていた。

「メロディ!何やっているの」

 メロディは、エレベータが来たよって、二
人に向かって知らせてくれていたのだ。
 自分も一緒に出かけるつもりなのか、メロ
ディは、エレベータの前で座って、二人をお
となしく待っていた。

「メロディも一緒に行くの?」


 ゆみが、メロディのほうを見ながら言うと
メロディは、もちろんって感じで、エレベー
タの中に入って、お座りしていた。

「じゃ、一緒に行こう」

 三人がエレベータに乗ると、扉が閉まって
下に降りていった。

 公園への道は、メロディが二人の前を歩い
ていた。ゆみとシャロルは、メロディの後ろ
姿を見ながら、おしゃべりしながら公園まで

の道を歩いていた。

「プレイボール!」につづく