プレイボール!

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 二人が公園の見える丘までやって来ると、
公園で、野球をしている皆の姿が見えた。

 野球は、もう既に始まっていて、バッター
の後ろのところに、兄の隆が立って審判して
いた。
 隆の前、バッターとの間にしゃがんでいる
良明の姿があった。

「良明だ。良明ってキャッチャーやっている
んだ」

 シャロルは、良明の姿に気づいて、ゆみに
言った。

「しまっていこうぜ!」

 良明が、丘の上のゆみたちのところまで聞
こえるぐらいの大声で叫んでいる。

「あれって良明の声?」

 シャロルは、その大声を聞いて、ゆみにた
ずねた。ゆみは頷いた。良明は、学校では一


切話さないので、シャロルも、彼の声を聞く
のは初めてだった。

「なんか、かっこよくない」
「行こう」

 シャロルは、初めて聞く良明の野太い、男
らしい声に感動していた。
 二人は、急いで丘を駆け下りて、公園のグ
ランドに向かった。野球の行われているグラ
ンドに着くと、日本人チーム側のベンチのと
ころに行った。

 二人は、空いているベンチにお弁当のバス
ケットを置いて座る。
 日本人チームは、今は守っている方で、ベ
ンチには、あまり人が残っていなかった。
 代打とか補欠で数人の日本人の子は、ベン
チに残っていた。その残っている中に、ゆみ
と同い年のおさむ君の姿があった。

「こんにちは」

 ゆみは、おさむ君に日本語で声をかけた。


「こんにちは。応援に来てくれたの?」
「うん」

 ゆみは、頷いた。ゆみの方が飛び級で学年
は上だが、ゆみとおさむ君は同い年だ。

「今、うちらのチームは、負けているんだ」
「じゃ、いっぱい応援しなくちゃね」

 ゆみは、おさむ君に言った。

「あれ、ゆみちゃんじゃない」

 アメリカチームのベンチにいるドミニクが
ゆみに気づいて言った。

「シャロルも一緒じゃん」

 ロイが、ドミニクの言葉に答える。

「なんで、あの二人は、あっちのチームにい
るの?」
「あいつらアメリカ人だろ。こっちに呼んで
来ようぜ」


 ロイとドミニクは、バックネットの裏を通
って、日本人チームのベンチの方に来た。

「ゆみちゃん。ベンチ間違えていないか」
「俺らのチームのベンチは、向こう側なんだ
けど」

 ロイたちは。ゆみに説明した。

 学校では、ゆみやシャロルのいるクラスが
5年生の優等生クラスだ。間に、ヒデキたち
日本人が多くいるクラスがあって、ロイやド

ミニクのいるクラスは劣等生クラスだ。
 竹村君がいるクラスも、ロイたちと同じ劣
等生クラスだ。このクラスには日本人は竹村
君しかいなかった。
 竹村君が日本人とあまり付き合いがないの
は、そのせいもあるかもしれない。

「あたしたち、今日は良明君のチーム応援し
に来ているの」

 ゆみは、二人に言った。


「アメリカチームは、向こうなんだけど」

 ドミニクが、シャロルに言った。

「あたしは、アメリカ人だけど、今日は、ク
ラスメートの良明の応援だし」

 シャロルも答えた。

「ゆみちゃんだって、アメリカ人だろ」
「あたし、アメリカ人じゃないよ。日本人だ
よ」

 ゆみは、ドミニクの言葉に思わず反応して
しまっていた。

「そうよ。あそこにいる日本人のアンパイヤ
が、ゆみちゃんのお兄さんだものね。日本人
の兄を持っているんだから、ゆみちゃんも日
本人よ」

 シャロルも、付け加えた。

「でも、ゆみちゃんって日本語あんまり話せ
ないじゃん」


 ロイの言葉に、ゆみは何も言え返せなかっ
た。あたしも、もっと日本語上手に話せるよ
うにならなくちゃ、そう思うゆみだった。

「俺らのチームにお出でよ」

 ドミニクは、ゆみのことを引っ張って、自
分たちのベンチに連れていこうとした。
 ロイやドミニクたちは、学校ではいわゆる
不良グループに属す子たちだ。ゆみやシャロ
ルもあまり付き合いたくはないのだが、なぜ
か彼らにゆみは好かれてしまっていた。

 飛び級で進級してきた体の小さいゆみが、
かわいく見えるのかもしれなかった。
 不良グループで、学校では彼らによくいじ
められている生徒も多かったが、ゆみが好か
れているせいか、ゆみやシャロルとおしゃべ
りしようと近寄ってはくるが、いじめられる
ことは全くなかった。

「でも、あたし良明君の応援だから」

 ゆみが断っても、ドミニクも、ロイも、自
分たちの方に来て欲しそうだった。


「あたしが行ってあげようか」

 シャロルが言った。

「シャロルは、こっち応援してなよ。ゆみだ
け来てほしいんだよ」

 ロイがシャロルに言った。

「なんでよ」

 シャロルは、ロイの言葉に、ちょっと不満

そうだった。

 ゆみは、飛び級で実際の年齢よりも、上の
学年になっているために、同級生たちから年
齢が年下で、背も低いため、かわいい妹のよ
うに思われているせいか、学年の皆からけっ
こう人気があった。
 皆から、ゆみちゃん、ゆみちゃんと親しま
れていた。ドミニクも、ロイも、ゆみとは、
別の違うクラスの生徒なのだけれども、一応
仲良くはしてくれていた。
 隆も、ロイたちのクラスのことは知ってい


て、ゆみがロイたちと話している姿を見かけ
ると、よくヒヤヒヤしていた。
 ゆみが、やさぐれて、タバコを吸っている
姿を想像してしまうのだ。

 ゆみが、後でアメリカチームのベンチにも
遊びに行くからって言ったので、ロイたちは
自分たちのベンチに帰っていった。

「ゆみちゃんって、ロイたちと同じクラスな
の?」

 自分のベンチに戻っていくロイの姿を見な
がら、おさむが聞いた。

「プレイボール!2」につづく