少年野球

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

「良明は、シェイスタジアムは、行ったこと
あるのか?」

 隆は、良明に聞いた。良明は、首を横に振
って否定した。

「それじゃ、今度は、シェイスタジアムに行
こうか」

 隆は言った。良明は頷いた。

「あたしは、ジャイアンツスタジアムに行っ

てみたいな」

 ゆみは、言った。

「ジャイアンツスタジアム」
「うん。一度でいいから行ってみたい」

 ゆみは、言った。

 ジャイアンツスタジアムは、ニューヨーク
ジャイアンツのスタジアムだ。
 ニューヨークジャイアンツは、野球ではな


く、フットボールのチームだ。

「フットボールは、今はまだシーズンじゃな
いだろう」

 隆は、言った。

 アメリカでは、野球のチケットよりも、フ
ットボールのチケットはなかなか手に入りに
くい。だから、野球場には何回か行ったこと
あるゆみでも、フットボール場には、まだ一
度も行ったことがなかった。

「今シーズンが始まったら行ってみようか」

 隆は、ゆみに、そう言ってくれた。

 昨日のヤンキースタジアムを出て、帰りの
駐車場までの道は、真っ暗で恐かった。
 試合が始まる前は、まだ明るかったのだが
試合が終わった帰りは、すっかり夜になって
しまい、周りは完全に真っ暗だった。
 真っ暗になると、ヤンキースタジアムの周
りは本当に恐かった。夜中でも近所の精神病
院の患者は、けっこう奇声を上げている患者


も多く、その声がさらに不気味だった。
 隆は、ゆみとシャロルの手と、帰りは良明
の手もしっかり握って、駐車場の車のところ
まで行った。大人の男性の隆でも、ちょっと
恐いぐらいだった。
 急いで、車に乗ると、しっかりドアをロッ
クしてから発進させた。

「明日も学校があるんだから、帰ったら早く
寝なさい」

 隆は、シャロルを彼女の家の前まで送って

から自宅のアパートメントに帰った。

「昨日、ヤンキース負けちゃったね」

 次の日、ゆみが学校に行くと、シャロルが
マイケルと話しているところだった。

「うん。残念」
「次は俺も誘ってよ」
「そうだね」
「俺たち四人で、いつもクラスのグループな
のに、シャロルとゆみ、良明まで一緒に行っ


て、何で俺だけ留守番なんだよ」
「そうだよね。マイケルも誘うべきだったよ
ね」

 ゆみは、マイケルに返事した。

「でも、良明君と一緒に見に行って、とって
も楽しかったよ」
「今度は、俺も行きたい」
「うん。行こう」
「土曜とかのデーゲームだったら、あたした
ちだけでも、行かせてもらえるよね」

 ゆみも、シャロルの言葉に大きく頷いた。

 ヤンキースタジアムならば、皆の家からも
近いからバスに乗ってもいける。
 これがシェイスタジアムだとケネディ空港
の方まで行かないとならないから、車で行か
ないといけないから、子供だけだと行けなく
なってしまう。

 お昼休みになり、四人は食堂でランチを食
べていると、ヒデキたちがやって来た。


「良明、今度の日曜は、試合だから午前中か
ら集合な」

 ヒデキは、良明に声をかけた。けど学校で
の良明は、言葉を話さずに、ゆみの脇に隠れ
るようにして黙ったままだ。

「試合って?」

 代わりに、ゆみがヒデキに質問した。

「今度の日曜、俺たち日本人チームとアメリ

カ人チームで、野球の試合をするんだよ」
「そうなの。良明君も出るの?それなら、あ
たしも応援に行こうかな」

 ゆみは、良明に聞いた。

「ゆみちゃん、応援に来るの?」

 ゆみの言葉を聞いて、ヒデキが嬉しそうに
ゆみに聞いた。

「良明君が出るなら、あたしも、応援に行こ


うかなって思っただけ」

 ゆみが、ヒデキに言った。

「そういえば隆さんも来るんじゃないかな」

 椎名が言った。

「お兄ちゃんも、野球しに来るの?」
「隆さんは、俺たちの野球の審判、アンパイ
ヤしてくれるんだよ」

 ゆみが聞くと、椎名が答えた。

「じゃあ、あたしもお兄ちゃんと一緒に見に
行こうかな」
「ゆみちゃんが来るなら、俺めちゃくちゃ頑
張るぞ」

 ゆみの言葉に、ゆみのことを片思い中のヒ
デキが張り切っていた。

「あたし、ヒデキ君じゃなくて、良明君のこ
と応援に行くんだけど」


 ヒデキの言葉を聞いて、ゆみが慌てて付け
加えた。その肝心の良明は、ずっと、ゆみの
脇で静かなままだった。

「なんで良明って、学校じゃ、何も話さない
んだろうね」

 それを見て、ヒデキが言った。

「野球のときとかは、お話するの?」

 ゆみがヒデキに聞いた。

「野球は、良明はキャッチャーやってるから
めちゃ声もでかく話してるよ」
「お兄ちゃんとも、良明君っていろいろお話
するのよ」

 ゆみが、ゆりこ先生の家に遊びに行ったと
きのことを思い出して答えた。

「あたしとだけは、お話してくれないのよ」

 ゆみは、ちょっと悲しそうに言った。


「おーす!」

 ゆみは、後ろからやって来たシャロルに、
急に声をかけられた。
 ちょうど、ヒデキと次の日曜の野球の話を
していたときなので、びっくりした。

「今度の日曜に、野球があるんだって」
「また?今度はヤンキース?それともメッツ
の試合?」
「ううん。そっちの野球じゃなくて、良明君
たちが野球するんだって」

 ゆみは、シャロルに英語で返事した。

「へえ、それじゃ、あたしたち、皆で良明の
こと応援しに行こうよ」
「うん、そうしよう。また一緒に、お弁当作
っていこうよ」
「それじゃ、あたしは、パイ焼いていくよ」

 シャロルの焼くパイは、すごく美味しいの
だ。ゆみはシャロルのパイが大好きだった。

「ね、野球だと、良明君っていっぱいおしゃ


べりするらしいよ」

 ゆみは、シャロルに言った。

「ヒデキ君も、椎名君もみな良明君とおしゃ
べりしたことあるらしいの」
「そうなんだ」
「お兄ちゃんも話したことあって、あたしだ
け良明君と話したことないのよ」

 ゆみがシャロルにちょっと寂しそうに言っ
たら、

「大丈夫よ、あたしも話したことないから」

 シャロルが、ゆみに言った。そういえばそ
うだった。シャロルもマイケルも皆、うちの
クラスの人たちは皆、良明とおしゃべりした
ことがなかった。
 なんでだろう?良明君って、うちのクラス
が嫌いなのかな、ヒデキ君たちのクラスの方
が好きなのかなと、ゆみは思った。

「お弁当作り」につづく