船での生活

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第78回

 隆たちは、世界を巡っているそのヨットの
船内を見せてもらっていた。

 キャビンのクッションの上には、茶色いロ
バのぬいぐるみが置かれていた。
 ロバは、南太平洋の小さな島のお土産物屋
さんで売っていたものだそうだ。
 ロバは、その島では、実際に生活に密着し

た大切なパートナーで、とても大切にされて
いたそうだ。

 そういった世界のあっちこっちで出会った
人々との思い出の詰まった物が、船内のあち
らこちらに飾られていた。

「このワンピース、可愛いでしょう」

 麻美たちラッコの女性クルーは、女同士と
いうことで、奥さんにクローゼットの中の洋
服を見せてもらっていた。


 洋服だけでなく、世界の珍しい下着まで見
せてもらっていた。

「うわ、生地がこれだけじゃ、着たらぜんぶ
見えちゃうよね」

 船尾のキャビンからは、女性たちのきゃき
ゃという声が聞こえていた。

 隆は、オーナーに洋子と一緒に船の前のキ
ャビンに置かれていた雑貨を見せてもらって
いた。

 洋子は、フォアキャビンの脇に付いている
トイレルームの扉が少し開いていたので、中
を覗きこむと、トイレの奥に小さなシャワー
ルームがあって、そこのタオル掛けにバスタ
オルが掛けられていた。
 洗面台には、二人分の歯ブラシと歯磨きが
コップに刺さっていた。

 毎日、この船で生活しているという生活感
が、船内のいたるところに溢れていた。

 ギャレーのコンロの上には、今朝の朝食に


食べたのか、フライパンの上にベーコンと目
玉焼きの残りが入っていた。

「もう、このヨットが、ご自身の我が家なん
ですね」
「そう、10年近くこのヨットで生活してい
ますからね」

 洋子に聞かれて、オーナーは、嬉しそうに
豪快に笑っていた。

「何を見せてもらっているの?」

 隆が、入り口から船尾キャビンの中を覗き
ながら、麻美に聞いた。

「隆は、覗いちゃだめよ」

 麻美は、あわてて下着の入っているキャビ
ネットを閉じながら言った。

「今夜のご予定は、横浜マリーナに停泊する
んですか?」
「ええ。今日から三日ほど、ここにお世話に
なろうと思っています。その後は、東北のほ


うの港を周ってみようと思っています」

 オーナーは、世界の港を自由気ままに巡っ
ているのだった。
 隆は、そんなオーナーのヨット生活が羨ま
しかった。

第79回につづく