イメージクルージング

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第79回

 隆は、その日の夜は興奮してなかなか眠れ
なかった。

 昼間、横浜マリーナで出会ったヨットで夫
婦で自由気ままな世界一周をしていたおじさ
んたち、彼らから聞いたクルージング中の話
を思い出していたのだ。

 ヨーロッパやアフリカの国を旅したときの
話も良かったが、隆としては、南の島を巡っ
たときの話に強く感銘していた。

 航海中に、釣りをしたら、大きな魚が何匹
もかかり、夫婦二人では、食べきれずに、立
ち寄った小さな島の市場に持っていたら、現
地住民の畑で育てた野菜と物々交換してもら
えた話、船に積んでいた日本製のラジオを現
地の人にすごく欲しがられて、お世話になっ
たお礼にプレゼントしたら、次の日の朝に、
食べきれないぐらいたくさんの野菜やフルー


ツを台車いっぱいお返ししてもらえた話、ど
れも、隆にとって感銘する話ばかりだった。

「いつか、俺も行ってみたいな」

 隆は、自分のベッドで横になりながら、思
わず独り言をつぶやいた。

「俺だって、いつか、あのおじさんと同じよ
うに世界巡航に行けるよな。いや、ぜったい
に行ってやる!」

 隆は、自分がクルージングで世界を巡って
いるところを、ベッドの中で想像していた。

 今、所有しているラッコでも、世界を巡る
ことできるかな。
 それとも、もう少し大きくて居住性の良い
ロングクルージング用のヨットに買い替えな
いと無理かな。

 いや、そんなことないよな。

 今のラッコも、2本マストのケッチでロン


グキールのヨットなんだし、ロングクルージ
ングにだって十分に行けるよな。

 そのために、クラブレースになんか勝てな
くても良いから、クルージングができるヨッ
トとして、ナウティキャットを隆は選択した
のだから。

 隆は、昼間、見せてもらったおじさんのヨ
ットを思いだしながら、ラッコのギャレーに
も、おじさんのヨットに備え付けられていた
水切り用のタッパーを購入しておこうとか、

ラッコのヨットで、世界に出航するのに便利
なクルージンググッズをいろいろ考えては、
頭の中でラッコの船内に設置していた。

 それを考えていたら、明日は会社で仕事だ
というのに、深夜すぎまでずっとベッドの中
で起きてしまっていた。

「そろそろ、寝よう」

 隆は、明日は会社だったということを思い
出して、興奮して眠れない自分を寝かせよう


としていた。

「そういえば、あのおじさんだって、結婚し
て奥さんがいたから、寂しくなく世界を巡っ
てこれたんだろうな。俺も誰か結婚する相手
を見つけないといけないのかな」

 隆は、クルージングのことを想像していた
はずなのに、いつの間にか、自分の恋、結婚
のことを考えてしまっていた。

 俺としては、どんな彼女が欲しいのかな、

やっぱり、美人の女の子が良いかな?いやい
や、美人でなくても良いから、優しくて性格
の良い子がいいよな。
 それでヨットが好きで、俺と一緒にヨット
で世界を旅してくれる、そんな女の子でない
とぜったいにだめだな。

 いろいろなテレビで見かける隆のタイプの
女性タレントが次々に、隆の頭の中に浮かん
できたが、やがてそのタレントの顔が消えて
いき、麻美の姿が浮かんでくるようになって
きていた。


 ほかに好きな女性タレントを思い浮かべる
のだが、服装は、確かにその女性タレントの
ものなのだが、顔だけは、麻美の顔しか思い
浮かばなくなっていた。

「なんで、麻美なんだよ」

 隆は、ベッドの中で思わず一人で苦笑して
しまっていた。

 いつもヨットではもちろん、会社でも秘書
として麻美とは一緒にいるからな、どうして

も麻美の姿が思い浮かんでしまうのだろう。
 隆は、そう思っていた。

第80回につづく