クルージング最後の夜

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第66回

 その夜のラッコの船内は、賑やかだった。

 楽しかったクルージングだったが、明日は
横浜マリーナに帰るので、乗員はクルージン
グ最後の日を楽しんでいたのだった。

 マリオネットの乗員も、ラッコの船内にや
って来て、皆でお酒を飲んで楽しんでいた。

「本当は、もう少し日程があったら、大島の
中を観光したいんだけどね」

 隆は、洋子に話している。

「大島は、ほかの伊豆七島よりも大きいし、
三原山やリス村とか楽しめる観光スポットと
かも多いんだよ」
「行ってみたいな」

 フォアキャビンにあるトイレに行っていた
ルリ子が、戻って来て二人の話に加わった。


「また、来ればいいじゃない」

 麻美が、隆に言った。

「そうだよな。大島ならば三連休でも、ちょ
っと頑張れば、ヨットでも遊びに来れるもの
な」
「三連休でも来れるんだ!それじゃ、9月に
連休あるから、また来よう」

 洋子に言われて、隆もすっかり行く気にな
っていた。

「なんかクルージングって楽しい!」
「同感」

 4月から横浜マリーナのクルージング教室
で、ヨットに生まれてはじめて乗ったばかり
だったが、皆もうすっかりヨットの魅力にハ
マってしまっていた。

「ラッコの生徒さんは皆、ヨットへの定着率
がいいですね」

 マリオネットの中野さんが、隆に言った。


 普通は、クルージング教室で生徒を募って
も、はじめの2、3回乗りに来るだけで、後
は全く来なくなってしまう生徒が多い。
 特に夏は、比較的多く乗りに来ていても冬
になると寒くてすっかりヨットに来なくなり
そのままヨットのことを忘れてしまう生徒が
多かった。
 横浜マリーナのクルージングヨット教室で
も、春先に生徒を募集しても秋、冬には来な
くなってしまう生徒が大半だ。

「うちは、誰もクルージング教室始まってか

ら今まで毎週日曜欠かさずヨットに乗りに来
ているよな」

 隆が、ラッコのクルー皆に言うと、皆は即
座に頷いていた。

「それだけ、ほかに何もすることが無いとい
うことか」
「そうかもしれない・・」

 ルリ子が隆に頷いた。


「みな年頃の女性だというのにね。デートす
る相手もなく・・」
「寂しい・・」

 麻美の言葉に、自虐で答えていたが、寂し
いという言葉とは裏腹に、誰も皆、ヨットに
乗っていられることの方が彼氏とのデートよ
りも楽しそうだった。

「麻美さんと隆さんは、ご結婚しないんです
か?」

 坂井さんの奥さんが、麻美に聞いた。

「え、結婚ですか?」

 麻美が思わず聞き返した。

「私も、気になっていた。麻美さんと隆さん
ってつきあっているのかなって」

 雪も、麻美に聞いた。

「そうね。結婚っていうか、そもそも、私た


ちってつきあっているのかな?隆どうなの」

 麻美は、隆に聞いた。隆は、恥ずかしそう
に、顔を真っ赤にしながら、あ、どうなんだ
ろうねと誤魔化していた。

「はっきりしないんだ」

 麻美は、坂井さんの奥さんに愚痴った。

「隆さん、はっきりしないと洋子が狙ってい
るよ」

 雪が、笑顔で隆のことを茶化した。

「わたし?」

 洋子は、突然、雪から自分に振られたので
驚いていた。

「さあ、飲もう!」

 その日の夜は、夜遅くまで、ラッコの船内
は灯かりがついていて、船内の皆は大声で飲
んだり食べたり大騒ぎしていた。


 大騒ぎしていても、漁港の入り江に停泊し
ているヨットの船内なので、特に周りに近所
迷惑になることもなく、苦情がくることも無
かった。

 これが、都会の真ん中だったら、

「うるさい!静かにしろ!」

 などと苦情の怒号が飛んできて、こんなに
夜遅くまで大騒ぎなどすることが出来なかっ
たことであろう。

 12時を過ぎると、ラッコの女性クルーと
隆は眠くなってきて先に寝床を作り、眠って
しまった。
 そして、その後は、いつものように雪とマ
リオネットたち、それに麻美が付き合う形で
飲み明かすのであった。

第67回につづく