帰還

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第67回

 最後の日

 その日の朝の出航は、早かった。

 夕方までには、横浜マリーナに帰還したか
ったので、到着予定時刻から逆算すると、ど
うしても、朝早く、早朝に出航しなければな
らなかった。

「おはよう」

 昨夜は、クルージング最後の夜ということ
で、遅くまで起きていたので、まだ皆、眠そ
うだった。

 クルージング中、いつも早起きして、皆の
朝ごはんを作っていた麻美でさえも、大きな
欠伸をしながら、眠そうな顔で、朝食を作っ
ていた。
 特に、麻美はマリオネットのメンバーや雪
たちに付き合って、皆よりもさらに遅くまで


起きていたので当然かもしれなかったが。

「遅くなるから、出航しよう!」

 隆は、朝ごはんを作っている麻美と佳代、
ルリ子を船内に残して、洋子や雪とデッキ上
に出ると、三人だけでアンカーを上げて、船
を出航させた。

 マリオネットも、ラッコの後について、波
浮港を出港してきた。

「朝ごはん、できたよ」

 船内から顔を出した麻美が、デッキにいる
皆に言った。

「ちょっと待ってよ。これからセイルを上げ
るところだから」

 隆は、麻美に答えた。

 洋子と雪は、マストの根元に立って、ちょ
うどメインセイルとミズンセイルを上げると


ころだった。

「佳代ちゃん、手伝ってあげて」

 佳代は、麻美に言われて、船内からデッキ
に出ると、雪や洋子の横に行って、セイルを
上げる手伝いをする。

 ルリ子も、外に出てきて、一緒にセイルを
上げる。

 エプロンをして、食事を手に持っている麻

美だけは、そのまま、船内に残って、パイロ
ットハウス内のテーブルの上に、皆の食事を
並べていた。

「セイル上げ終わったよ」

 皆が、朝ごはんを食べるために、船内に戻
って来た。
 舵を取っていた隆も、皆と一緒に船内に入
ってきた。

 食事中は、表のコクピットにあるステアリ


ングではなく、船内のパイロットハウス内に
付いているステアリングで、舵を取ろうとい
うのだ。

「はい。皆、席について朝ごはんよ」

 麻美は、エプロンを外しながら、皆に言い
ながらパイロットハウス上の席に着かせた。

「麻美さん、皆のお母さんみたい」

 麻美に言われて、席に着きながら、ルリ子

が嬉しそうに言った。

「麻美さんがお母さんだったら、隆さんはお
父さんだね」

 雪が言った。

「私たちは?子ども?」
「だね!」

 ルリ子は、嬉しそうに答えていた。


「一番上の長女は雪さん」
「末っ子は佳代ちゃんだね」

 麻美が、佳代の横の席に腰掛けながら答え
ていた。

「いただきます!」

 ラッコの朝ごはんが、始まった。

第68回につづく