ねこ

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 ゆみが、ゆりこ先生と一緒に、良明の入っ
ていったアパートメントの中に入ると、良明
がエレベータを開けて、待っていた。

「ご苦労さま、エレベータボーイさん」

 ゆりこ先生が笑いながら、良明の頭を撫で
て、エレベータに乗った。
 良明は、エレベータの5階のボタンを押し
て、エレベータは上がり始めた。

「よく5階まで覚えていたわね」

 ゆりこ先生は、良明の記憶力にまた感心し
ていた。
 エレベータには、蛇腹で開く扉がついてい
た。良明は、手動でその蛇腹の扉を開け閉め
する。
 5階でエレベータは停まり、ゆりこ先生が
自分の部屋のドアを開ける。

 部屋の中から、先生の帰りを待っていた猫
が何匹も出てきた。

「あ、ネコ」


 ゆみは、グリーン色のしましまの猫と目が
あった。良明は、その向こうにいた白い猫を
抱き上げて撫でてあげている。ゆみも、グリ
ーン色の猫のことを撫でてあげた。
 ゆみが、グリーン色の猫を抱き上げて撫で
ていたら、良明がやって来て、ゆみからグリ
ーン色の猫を自分の腕の中に取り上げた。
 良明の肩の上には、白い猫がのっていた。

「あたしも撫でたいな」

 ゆみは、良明に猫なで声で言ってみた。で

も、良明は、首を横に振って、2匹とも自分
のところから手放さなかった。

「ゆみちゃん、そっち」

 それを見ていたゆりこ先生が、部屋の向こ
う側を指差してみせた。その部屋は、先生の
寝室らしくて、ベッドの上にもう一匹、白と
茶の猫がいた。
 ゆみは、部屋の中に入って、その白と茶の
猫を抱き上げ撫でてあげた。
 そのとき、ゆみの後ろで部屋のドアがバタ


ンと閉まり、ゆみは部屋の中に閉じ込められ
てしまった。

「良明君、そんな意地悪しないの」

 部屋の外から、ゆりこ先生の声がした。

「ゆみちゃん、大丈夫?」
「うん」

 ゆみは、部屋の外のゆりこ先生に答えた。

「あたし、猫って大好き」
「ゆみちゃんの家は、犬でしょう」
「はい、うちはメロディがいるけど」
「そうよね」
「お兄ちゃん、犬が良いって言うから、あた
しは猫も欲しかったんだ」

 ゆみは、部屋の外のゆりこ先生とドア越し
に話していた。

「開けて」


 ゆみは、部屋の中から言ったが、良明は、
ぜんぜん部屋を開けてくれる様子がなく、あ
いかわらず、部屋のドアは閉められたままだ
った。
 仕方ないので、ゆみは、ドアから離れて、
先生の鏡台の椅子に腰掛けながら、白と茶の
猫を膝にのせて撫でていた。
 そのとき、部屋のドアが、ほんの少しだけ
開いた。部屋の外からそっと良明が、中の様
子を覗き込んでいる。
 ゆみが、わざと知らん振りして猫の頭を撫
でていると、良明が部屋の中に入ってきた。

 そのとき、ゆみは、部屋の外に飛び出して
今度は、ゆみが部屋のドアを閉めた。

「良明君なんか、もうぜったいに部屋の外に
出してあげない!」

 ゆみは、部屋の中に向かって言った。

 良明は、慌てて部屋のドアのところに走り
よってきた。
 ドアは部屋の外から、ゆみがしっかり押さ
えてあるはずだったのだが、男の子と女の子


との力の差というか、良明の方が年齢的にも
3歳上なので、やすやすとドアを開けて、出
てきてしまった。
 外に出てきた良明は、逃げ回っているゆみ
のことを、玄関の端まで追いかけていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 玄関の端で追い詰められたゆみは、小さく
しゃがみこんでいた。
 ゆみの背中の上にのった良明は、その上で
跳ねて満足そうだった。

「ほら、やめなさいったら」

 ゆりこ先生は、ゆみの背中にのっていた良
明のことを降ろして、ゆみを立たせた。

「良明君も男の子なんだから、女の子のゆみ
ちゃんをいじめたらダメよ」

 ゆりこ先生が言った。

「そうよ」


 ゆみも、先生の後ろに隠れながら、良明に
言った。良明が、チラッとゆみの方を見ると
ゆみは、先生の影からべーとした。
 それを見たゆりこ先生は、

「ゆみちゃんもそんなことして…」

 ゆりこ先生が、軽くコンって拳骨でゆみの
頭を叩いてみせた。良明の方も、コンってし
ようとしたが、良明は、先生の後ろに逃げ込
んでしまった。
 今度は、ゆみと良明は、先生の周りをぐる

ぐると追いかけっこし始めた。

「さあ、おやつにしましょう」

 ゆりこ先生は、自分の体の周りをぐるぐる
回っている二人に言った。

「おやつだって!」

ゆみは、良明に言った。

「手作りケーキ」につづく