観音崎の灯台

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第36回

 観音崎の真っ白な灯台がだんだんと近づい
てきた。
 横浜マリーナを出航したラッコとマリオネ
ットは、千葉の保田を目指して走っていた。

 横浜港内に停泊しているタンカーや貨物船
の間を通り過ぎていくと、小さな島が見えて
きた。

 猿島という名の島だ。無人島なのだが、横
浜の金沢八景から観光用の定期船が運航して
いて上陸することができる。
 島には、昔に使われていた砲台などが展示
されていて、海岸にはバーベキュー場もあり
家族で訪れるとけっこう楽しめる島だ。

 その島の脇を抜けて行くと、半島があり、
半島の突端には真っ白い灯台が建っている。

 これが観音崎の灯台だ。


 観音崎の海岸沿いには、京急のオーション
ビューホテルが建っており、若いカップルな
どに人気のスポットだ。

 横浜マリーナからクルージングに出かける
と大概、その観音崎の灯台をまずは目指して
いくことが多い。

 目的地の千葉の保田は、観音崎の半島を少
し通り越した辺りから、垂直に東京湾を横断
していくとちょうど対岸にある。

「東京湾を横断する前に、お昼ごはんを食べ
てしまいましょうか」

 麻美が、船内のギャレーでお昼ごはんの支
度を始めた。

 東京湾の中央は、大型船の航路になってい
るため、大型のタンカーや貨物船、旅客船が
ひっきりなしに通っている。

 ヨットやボートが千葉に向かうためには、
大型船に気をつけながら、その間を縫って東


京湾を垂直に横断していかなければ千葉のあ
る房総半島にはたどり着けない。
 横断中は、左右からやって来る大型船に、
気を配らなければならないため、操船にも気
を使う。

 その前に、先にお昼ごはんを食べてしまっ
ておこうという計画なのだ。

 佳代とルリ子が、麻美の後から船内に入っ
て、ギャレーで麻美の作っているお昼ごはん
の支度を手伝う。

 雪と洋子は、デッキで隆といっしょに船の
操船を手伝っている。

 今日のお昼は、パスタの予定だった。

 お鍋に水を張って、お湯を沸かし、スパゲ
ッティをゆでる。その隣りのガスレンジでは
パスタにかけるミートソースをフライパンで
調理している。

 ルリ子は、付け合わせ用のサラダの野菜を
テーブルにまな板を置いて、そこで包丁で切


っていた。

 しばらくすると、パスタの美味しそうな匂
いが、船内に充満してきた。

 その匂いは、開いている窓から出て、デッ
キにいる隆や洋子たちのところまで匂ってき
た。思わず隆と洋子のお腹がぐーと鳴った。

「お腹、空いてきたね」

 隆と洋子は、顔を見合わせて笑ってしまっ

ていた。まるで隆のお腹に連動して、洋子の
お腹までも、ぐーと鳴ってしまっていた。

「食事、できたよ!」

 船内から顔を出した麻美が、デッキの皆を
呼んだ。

「中で、佳代ちゃんがステアリング握ってく
れているから、早くキャビンに入っていらし
ゃいよ」


 麻美に言われて、デッキで操船していた三
人も、船内に入って来た。

 外のステアリング、舵を離しても、船がど
こかに行ってしまわないように、船内のステ
アリングを、佳代がちゃんと握っていた。

 普通のヨットと違って、ラッコの、ナウテ
ィキャットには船外だけでなく、船内でも操
船できるステアリングの設備が整っている。
 モーターセーラーの良いところだ。

「もうすっかりベテランじゃん」

 隆は、舵を握ってしっかり船を操船してい
る佳代の頭を撫でてあげた。
 隆に誉められて、佳代は嬉しそうにしなが
ら、舵を握っていた。

第37回につづく