三宅島の旅館

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第57回

「そろそろ、夕食の食事に出かけようか」

 シイラをさばいて、漁港の岸壁でシイラパ
ーティーを開いた後で、ラッコの皆は、船内
に戻って、昼寝などをしながら、のんびり過
ごしていた。

「なんか、腹が減ったな」

 昼寝から目覚めると、お腹が空いてきた隆
が言った。

 漁港の近くに、宿泊無しで食事だけでも立
ち寄れる旅館があるということで、夕食は、
そこに食べに行くことになった。

「この道で大丈夫ですか?」

 漁港を出たところで、道を歩いていてすれ
違った地元の人に、麻美が旅館への行き方を
聞いていた。


 地元の方の話だと、すぐそこだと言う。

 歩いても、10分ぐらいのところだという
ので、タクシーに乗るのをやめて、皆でぶら
ぶら歩いていた。

「なんか、ぜんぜん着かないね」

 20分ぐらい歩いたところで、雪がつぶや
いた。

「本当に遠いな」

 隆も、雪のつぶやきに同意した。

「地元の人たちは、島のこの坂道とかに慣れ
ているから、10分ぐらいで歩いてしまうの
かもね」

 麻美が答えた。

 三宅島の道は、島のでこぼこに合わせて作
られているので、アップダウンの激しい坂道
が多い。
 ラッコの皆は、その道を登ったり、降りた


りとずっと歩き続けていた。

「見えた!」

 次の丘を登りきったところで、ルリ子が叫
んだ。
 丘の上から反対側に少し下ったところに、
目指す旅館の屋根と看板が見えた。
 あと、もう少しとばかりに、皆は、頑張っ
て旅館を目指して歩いていた。

「これで、旅館に入ったら、今日は満室なの

で、宿泊者以外の方のお食事はできません。
って言われたらどうする?」

 隆が、横を歩いていた佳代に聞いた。

「もう、歩けない」

 佳代が、隆の腕にぶら下がりながら、甘え
た声で答えた。

「大丈夫よ。ちゃんと食べれるわよ」


 麻美が、佳代の頭を撫でながら、笑顔で答
えていた。

「でも、旅館の駐車場が車でいっぱいそう、
本当に食べれないかもよ」
「本当だな。そしたら、タクシー呼んでもら
って、どこかの食堂に食べに行こう」

 隆と洋子は、話していた。

 ようやく旅館の入り口に到着した。

 皆は、入り口から中に入った。旅館の女将
が、着物姿で皆を出迎えてくれた。
 旅館の中は、けっこう家族連れでいっぱい
で混んでいたが、隆たちの心配したようなこ
とはなく、女将に食堂へ案内されて、旅館で
無事、夕食を食べられることとなった。

「すごい!美味しそうじゃない」

 麻美は、ほかのお客さんのテーブルの上に
並べられた料理を眺めて叫んだ。
 ラッコの皆も案内され、空いていた席に座


って、食事を注文した。

「こちらの貝は、今朝、うちの漁船が獲って
来たばかりなんですよ」

 女将に、横浜からヨットで来たことを話す
と、女将は感動してくれたのか、頼んだ料理
以外に、サービスで次々とメニューに載って
いない料理までも持って来てくれた。

「食べきれないよ」

 テーブルの上に並べられた多くの料理を眺
めながら、佳代が、笑顔で麻美に言った。

「若いんだから、大丈夫よ。いっぱい食べて
行ってね」

 女将が、次々と持ってきた料理を、佳代や
ルリ子の目の前に置いていった。

第58回につづく