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阿古港

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横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第56回

 三宅島が、だんだんと近づいてきた。

「そろそろ入港だし、セイルを下ろそう
か、エンジン始動!」

 隆のかけ声で、ラッコの乗員たちは、
各自ポジションについて、メインセイル
とミズンセイルを下ろした。

 セイルを下ろし終わった後は、港に入
ってからスムーズに着岸できるように、
先に船体の両舷にフェンダーを付けたり
着岸用のロープの準備をしたり、と入港
前は何かと忙しかった。

 今日は、天気が良いので、三宅島の向
こうに御蔵島の島影がしっかりと見えて
いる。

「御蔵島も、自然が豊かな島で上陸すれ
ば、けっこう楽しめるんだけどね」


 隆は、遠くに見えている御蔵島の島影
を眺めながら、洋子と話している。

 今回のクルージングは、三宅島に到着
したら、その後は、式根島、大島と伊豆
七島の島々を巡りながら、横浜マリーナ
に戻るので、御蔵島には立ち寄る予定は
なかった。

「御蔵島は、来年にまた来よう」
「そうだな。来年は、もう少し遠くまで
足を延ばして、八丈島、御蔵島と周って

みようか」

 洋子に、来年もどこかにクルージング
に行こうと言われて、隆は、とても嬉し
そうに答えた。

 三宅島の阿古港の少し先のところには
背の高い細長い島が三個あった。
 島自体は、背の高い岸壁に囲まれてい
て上陸はできないが、島の周りには、豊
かな自然が豊富で、たくさんの魚が住ん
でいた。


 海がきれいで、魚がたくさん住んでい
るため、ダイバーにとても人気があり、
人気のダイビングスポットだった。

 三個の島を右舷に見ながら、ラッコは
阿古港に入港する。

 その後ろに続いて、マリオネットも入
港してくる。阿古港の手前には、暗礁が
広がっているので、入港時には、隆は慎
重になっていた。

 入り口で慎重にはなるが、港内に入っ
てしまえば、港内は広く、立派な防波堤
に囲まれているので、船は走りやすくて
入り口付近よりはいくらか楽だった。

 さすがに、三宅島までやって来るレジ
ャーボートは少ないようで、港内には、
地元の漁船以外は、一隻のヨットが停ま
っているだけだった。
 昨日、入港した新島や式根島に停泊し
ていたヨット、ボートの数から考えれば
三宅島港内は、がらがらで空いていた。


「どこから来たの?横浜か、よくやって
来たね。遠かったでしょう」

 岸壁の片隅で、のんびりと魚網の整備
をしていた漁師さんが、岸壁に着岸した
ラッコを見て、声をかけてくれた。

 新島や式根島では、あまりにも、やっ
て来るレジャーボートの数が多すぎて、
地元の漁師さんも、いちいちやって来る
ヨットやボートの連中全てに、一人ずつ
声などかけていられない。

 それに比べると、三宅島は静かで、地
元の人たちとの交流を純粋に楽しめた。

「頑張って、遠くここまでやって来たか
いがあったね」

 隆と麻美は、話していた。


魚のさばき方

 ルリ子は、包丁を片手に大きな獲物を


前に悪戦苦闘していた。

 ラッコとマリオネットが、三宅島に到
着したのは、お昼を少し過ぎたぐらいだ
った。

 両艇とも、アンカーをしっかり打ち終
わって、岸壁と船との間も、しっかりと
ロープで結び終わっていて、ようやくひ
と段落しているところだった。

 夕食までには、まだまだたっぷり時間

があって、ラッコのメンバーたちは、船
のデッキ上や漁港の岸壁でのんびりまっ
たりと過ごしていた。

「うまくさばけるかな」

 ルリ子は、三宅島に来る途中で釣り上
げた大きなシイラを、岸壁に引き上げて
ビニールシートの上でさばこうと解体に
必死になっていた。

 出刃包丁など、一通りの包丁セットも


用意してきていたが、自分の体よりも大
きい魚など今までにさばいたことが一度
も無かった。

「三枚に下ろして、魚の内臓を全部しっ
かり取り除くらしいぞ」

 隆が、さばくのを手伝いに洋子と岸壁
にやって来た、というよりも大きな魚の
解体への興味本位で、ルリ子の近くに寄
って来た感じだった。

 麻美や佳代も、やって来て、一体どう
やってさばこうかと悩んでいた。

「よ!そのまま、お腹のところから刺し
て、ぐいっと切り裂いていくんだよ」

 岸壁の向こうから、ラッコのメンバー
たちが魚に悪戦苦闘している姿を眺めて
いた漁師のおじさんが声をかけた。
 その漁師のおじさんも、ラッコのメン
バーたちのところにやって来た。


 ラッコが停泊している近くの海面に停
泊していた漁船の上で、網を整理してい
た漁師さんたちも、岸壁に上がってきて
ラッコのメンバーたちのところに興味深
くやって来た。

「何、君たちが釣ったのか?」
「式根から三宅島に来る途中の海面で釣
ったのか。すごいじゃないか!よくヨッ
トで、こんな大きな魚を釣り上げたね」

 プロの漁師さんたちに、褒められて、

隆たちは、嬉しそうだった。

 ルリ子が、慣れない出刃包丁を握りな
がら、不器用な手つきで魚に包丁を入れ
ているのを見て、漁師さんの一人が、貸
してごらんとばかりに、ルリ子から包丁
を受け取って、見事にすぱっと魚のお腹
に包丁を刺して、丁寧にきれいに魚の左
腹をはいでくれた。

「おおっ!」


 隆たちラッコのメンバーからは、その
見事な包丁さばきで、切り取られたシイ
ラの白身を見て、思わず大きな歓声が上
がっていた。

 その後、その漁師さんは、今度はルリ
子と一緒に、出刃包丁を握ってくれて、
魚の右腹をさばいてみせてくれた。
 プロの漁師と一緒に包丁を使えたおか
げで、ルリ子もなんとなく魚のさばき方
を理解できた気がした。

 麻美が、船からお皿と醤油を持ってき
て、手伝ってくれた漁師さんにも、シイ
ラの刺身をご馳走した。
 シイラの淡白な白身は、あっさりして
いて美味しかった。

 特に釣れたてで新鮮なので、東京の魚
屋さんの店頭で買ってきた魚の味とは、
まるで違っていた。

第57回につづく


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