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大漁!

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横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第55回

 昨日に続いて、天気の良い夏らしいクルー
ジング日和だった。

 海は、ベタッとフラットで凪ぎいていた。

 風も無く、夏の暑い日差しはラッコのデッ
キ上に降り注いでいた。

 麻美と雪は、大きなビーチパラソルをデッ
キ上に広げて、その下で寝転がっていた。
 隆と洋子も、ブームの上に小さなテントを
張って、日陰を作って、その下でくつろいで
いた。
 隆と洋子の作ったテントの日陰にルリ子も
やって来て加わった。

「魚釣りとかするの?」
「弟と一緒に、よく本牧の釣り場に、釣竿を
持って行っていたの」


 隆とルリ子は話していた。

「それじゃ、釣りをしようか」

 隆は、立ちあがって、船尾のコクピットに
あるロッカーを開けて、中から釣りの道具を
一式出して、ルリ子に手渡した。
 釣竿ではなくて、赤い色の積み木のおもち
ゃのような飛行機に長い糸が付いているもの
だった。
 糸の先には、釣り針が何本か付いている。

 釣り針、糸と一緒に、飛行機を船の船尾か
ら流して、待っていると針に魚がかかるのだ
と、隆はルリ子に説明した。

 ルリ子は、釣竿を垂らしての釣りならば、
したことがあったが、飛行機を流してやる釣
りは、したことがなかった。

「これで、釣ったことってあるの?」
「無い」

 釣りを全くやらない隆は、ルリ子に聞かれ


て正直に答えた。

 船に積んでいた釣り道具は、クルージング
に出かけたときに、魚が釣れたら、美味しい
お刺身が食べれて良いなって思って、ただ船
に積んでいただけで、実際には、隆も、釣り
道具を一度も使ったことがなかった。

 しばらく、隆とルリ子は、飛行機を船尾か
ら流しては引き上げを繰り返していた。

 何度かやっているうちに、魚はかからない

のに、糸を引いたり、出したりしているのに
隆は、すっかり飽きてきてしまった。
 飽きてきた隆は、釣りをやめて、洋子の横
に戻って、またデッキ上に寝転んでいた。

「引いたり、出したりし過ぎかもしれない。
一回流したら、少し魚がかかるまで我慢した
ほうが良いのかも」

 隆が飽きてやめてしまった後も、ルリ子だ
けは、まだ頑張って釣りを続けていた。


 寝転がっていた隆は、違和感を感じて起き
上がった。横を見ると、洋子も起き上がって
いた。

「なんか感じたんだ?」
「そう、なんか船が急に停まった気がして」

 確かに、けっこう順調な艇速で進んでいた
ラッコが、急にスピードを落としていた。
 特に、エンジン音はおかしくなく、エンジ
ンは通常通りに動いていそうだ。
 もちろん、昨日のマリオネットのようなエ

ントラ、エンジントラブルでもなかった。

 夏の天気は、相変わらず風も無く、穏やか
で、広げたメインセイルとミズンセイルは、
ちゃんと動力として活躍しているのかどうか
はわからないが、それなりには、普通にセイ
リングはしていそうだった。

「かかった!けっこう重いかも!」

 船尾で、釣りをしていたルリ子が大声を上
げた。隆は、すっかり諦めてしまって、釣り


をしていたことも忘れていたが、ルリ子はま
だ釣りを続けていた。

 隆と洋子が後ろを振り向いてみると、ルリ
子が必死になって、重そうな釣り糸を引っ張
り上げている。

 何か魚がかかったみたいだ!

 側にいた背が高く力もある雪が、ルリ子の
ことを手伝って、釣り糸を引いている。

 麻美と佳代も、やって来て何か手伝おうと
しているのだが、何をどうしたらいいかわか
らずに、じっと側に立って見守っていた。

 隆と洋子も船尾に駆け寄って、いつでも手
伝えるように待機していた。

 釣れた魚は、かなり大物のようで、少し丸
めの体格をしたルリ子でも、その重さに引き
上げるのを苦労していた。
 それでも、少しずつ、少しずつ釣り糸は巻
かれていき、ラッコのすぐ近くの海面に、大


きな魚の魚影が浮かんで見えてきた。

「大きい!」

 それを見た麻美は、その大きさに思わず叫
んでしまっていた。

「網があるから、網ですくおうか?」

 隆は、船内に入ると、海に、何か物が落ち
た時に拾えるように積んであった網を持って
出てきた。

 その網を、ルリ子の側で引き上げるのを手
伝っていた雪に渡した。

 ルリ子は、必死で魚を船の上に引き上げよ
うとしているが、魚のほうは、引き上げられ
まいと大きな体を暴れ回って、必死に抵抗し
ている。

 隆が、長いボートフックで魚の後頭部を思
い切りひっぱ叩いた。
 それで、ようやく魚が静かになって、ルリ
子はなんとか魚をデッキ上に引き上げること


ができた。

「これ、なんて魚?」

 佳代が、デッキに引き上げられた魚の頭を
撫でてあげながら、麻美に質問した。

 麻美にも、なんていう魚なのかよくわから
なかった。

 大きくて四角く角ばった魚で、頭の先にた
んこぶのような出っ張りがあった。

 別に、隆がひっぱ叩いたから、たんこぶが
出来ていたわけではない。
 黄色から緑っぽい色をしていて、決して可
愛らしいという感じの魚ではなく、ちょっと
グロテスクな魚だった。

「シイラよ」

 魚に詳しいルリ子が答えた。

「シイラ、これが?シイラって、よく高級料
亭とかで出てくるお魚よね」


「うん、そうよ。私も、高級料亭のシイラは
食べたことないけど、料亭とかの料理に、よ
くシイラが出てくるっていう話は、聞いたこ
とある」

 ルリ子は、麻美に答えた。

 セレブ育ちの麻美も、高級料亭なんて、そ
んなに食べに行ったこと無かったが、昔、高
校生の頃に、弟と一度だけサンフランシスコ
で父親に連れられて行った覚えがあった。
 そのときにシイラが出てきて、白身がとて

も淡白で美味しかったのを覚えていた。

第56回につづく


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