ヒデキ君

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

「ロールパン先生のクラスってゆみちゃんの
クラスじゃないですか」
「なんで、ゆみちゃんのクラスに転校できた
んですか」

ロールパン先生のクラスというのは、5年生
のクラスの中で一番勉強のできるクラスにな
っていた。
 日本からやって来たばかりで、英語もまだ
よくわからない日本の生徒が、普通なら転校
で入れるようなクラスではなかった。

「ほかのクラスが定員いっぱいになってしま
っていたからとか」
「だったら、俺が転校したときも、クラスが
いっぱいで、ゆみちゃんのクラスに入りたか
ったな」

「いや、そうじゃないだぞ。ロールパン先生
のクラスはただいっぱいだったからで入れる
クラスではない。彼は試験を受けて、その試
験が満点だったそうだ」

ルビン先生が皆に説明した。


「へえ、そうなんだ!」
「良明って、すごい勉強できるんだな」
「見た目はスポーツだけで、ぜんぜん勉強で
きそうもないのにな」

 教室の皆は、口々に良明のことを感心して
いた。良明は、不思議に思っていた。そんな
クラス分けの試験なんか受けた覚えが無かっ
た。

「ゆみちゃんと同じクラスなんですか。いい
な」

「俺もゆみちゃんと同じクラスになりたい」

 教室のあっちこっちからそう言った声が飛
びかっていた。ほかの日本人と違って、小さ
い頃からアメリカに暮らしているゆみが、英
語もできて、アメリカの生活にも慣れている
のは当たり前のことなのだが、そういうとこ
ろが、他の日本人から見るとかっこ良く見え
てしまうのだろうか。
 ゆみは、ニューヨークに住んでいる日本人
の子たちの間では、けっこうな人気者で憧れ
の存在になっていた。


「さあ、それでは授業を始めましょう」

 ルビン先生はそう言うと、教科書を持って
英語の授業を始めた。

「よ、ゆみちゃんと同じクラスなんていいよ
な。うらやましいよ」

 椎名が座って、授業を聞き始めていた良明
に話しかけてきた。

「そうなんですか」

 ゆみとは、まだ昨日出会ったばかりの良明
にはよくわからなかった。

「ゆみちゃんと同じクラスっていうのはすご
いうらやましいことなんだぞ」

 椎名は言った。

「ここらへんの日本人の子たちの間では。特
にヒデキなんか嫉妬しちゃうかもよ」
「ヒデキ?」
「そうか。まだヒデキには会ったことないん


だっけ、良明は」

 椎名は言った。

「あっ!」

 良明は、突然思い出したことに思わず口に
出してつぶやいてしまっていた。

「え、どうした?」
「いや、別にそうじゃなくて」

 良明は慌てて椎名に返事した。良明が思い
出したのはクラス分けの試験のことだった。
 朝、お母さんと学校に来たとき、受付のと
ころでなんだかわからないけど、算数の問題
を何個か解かされたのだ。
 あれがクラス分けの試験?にしては足し算
とか引き算のめちゃ簡単な問題だったが。あ
の問題が優秀クラスの試験のわけないか。

「そのうち会えると思うけど」
「え、誰に?」
「ヒデキ」


「ヒデキ?」
「ヒデキっていうのは、めちゃめちゃ、ゆみ
ちゃんに片思いしているやつなんだよ」
「へえ、片思いしてるんだ」
「ああ」

 椎名は良明に言った。

「あいつがさ、良明がゆみちゃんと同じクラ
スとか知ったらめちゃ嫉妬されるぞ」
「そうなのか」
「ああ、ぜったい嫉妬するね」

「そうかね」
「どうする?めちゃ嫉妬して良明のこと恨ん
できたりしたら」
「ああ、そうしたら俺とクラス変わってやる
よ」
「はは、そうかもな。それが一番平和的な解
決かもしれないな」

 椎名は良明の言葉に同意した。

「ヒデキっていうのは椎名のクラスなの?」
「ああ、今日は風邪で休んでる」


「ふーん」
「ま、うちのクラスに来なくても、また公園
に野球しに来るだろう。そしたら会えるよ」
「野球するんだ」
「ピッチャーだよ。試合のときはチームリー
ダーすること多いよ」

 良明は、野球のチームリーダーとかいう話
を聞いて、早く会ってみたくなった。

 椎名は、ヒデキのやつが、良明とゆみが同
じクラスだってことを知った時のことを考え

てニヤッとしていた。

「サマーバケーション」につづく