筆島、アゲイン

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第85回

「美味しいじゃない!」

 隆は、パイロットハウスのサロンに座って
洋子の作った朝食を食べながら、言った。

「うん。美味しいよ」

 ほかのクルーたちも、洋子の作った朝食を

口々に褒めてくれたので、エプロンをしてス
テアリングを握っていた洋子は、ちょっと満
足げだった。

「おはよう」

 皆よりも、遅く起きてきた麻美が、よく眠
って、すっきりした顔で挨拶した。

「あら、洋子ちゃん。エプロンして、操船し
ているの」


 麻美は、いつも自分がギャレーで料理する
ときに付けているエプロンをしている洋子の
姿を見て、聞いた。

「今朝の朝食は、洋子ちゃんがぜんぶ作った
んだよ」
「麻美さんの分も、ここにあるよ」

 洋子が答える前に、ルリ子や佳代が、麻美
に答えていた。

 ルリ子が指さしたテーブルの上には、麻美

の分の朝食の目玉焼き、ソーセージなどがお
皿に盛られていた。

「ありがとう。ちょっと歯を磨いてきてから
いただくわね」

 麻美は言うと、船首のトイレ、バスルーム
に歯を磨きに行った。

 麻美は、歯を磨いて戻って来ると、サロン
に腰かけて、自分の分として用意されていた
朝食を食べた。


「美味しいだろう?」

 隆は、麻美が食事している姿を、じっと眺
めながら聞いた。

「うん、美味しいよ。洋子ちゃん、お料理上
手じゃない」

 麻美は、洋子のことを褒めた。

「隆は、自分が作ったわけじゃないのに、そ
んなに心配そうな顔で、食べている私の顔を

確認しないでよ」

 麻美は、隆が、じっと心配そうに、自分の
食べている姿を覗きこんでいる、その姿が、
可笑しいのをこらえながら言った。

「あ、筆島!」

 パイロットハウスの窓から外を覗いていた
雪が、大島の横に立っている筆島の姿を見つ
けて、叫んだ。


「おお、いつの間にか、もう筆島の見えると
ころまで来ていたんだ」

 大島の横に立っている筆島の姿を、皆は懐
かしそうに眺めていた。

 洋子は、パイロットハウスのステアリング
を握りながら、先月初めて伊豆七島に来たと
きのことを想いだしていた。

第86回につづく