楽々クルージング

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第84回

「おはよう」

 船尾の部屋から起きてきた隆は、パイロッ
トハウスで舵を取っているルリ子に声をかけ
た。

「なんだかずいぶん、楽した操船をしている
じゃないか」

 普通のヨットならば、寒くてもデッキに出
て、そこで舵を取らなければならないのに、
ラッコはパイロットハウスが付いているので
船内で操船することもできる。

 それを利用して舵を取っていたルリ子に隆
は言った。

「そうでしょう。佳代ちゃんが考え出したん
だよ!ここで操船すれば、暖かい船内のキャ
ビンで操船できるでしょう!」


 ルリ子は、隆に自慢した。

「無精だね」

 隆は、苦笑していた。

 ラッコのオーナーになる前は、ずっとレー
ス艇のクルーをしていた隆だったので、寒く
ても、暑くても、いつもコクピットで舵を握
っているのが当然だと思っていたのだ。

 でも、この船には、せっかくパイロットハ

ウスが付いているのだし、楽にクルージング
するのも嫌いではない隆だった。

 いや、むしろ、せっかく付いているのだか
ら利用した方が良いだろう。
 うまくパイロットハウスを利用していた佳
代たちに脱帽だった。

「あれ、そういえば麻美は?」

 ウォッチ担当のはずの麻美の姿がないので
隆は、きょろきょろと麻美を探した。


「後ろの部屋で寝ているよ」
「え、隆さんと一緒に後ろの部屋で寝ていた
んじゃないの?」

 ルリ子と佳代が、一斉に答えた。

 隆は、自分が寝ていた後ろの部屋のドアを
開けて、中を覗いた。

「あ、本当だ。ここで寝ていたのか。布団を
かぶって寝ているから、ぜんぜん気づかなか
ったよ」

 隆は言った。

 それを聞いて、ほかの二人は笑いだした。

「代わろうか?」

 隆は、ウォッチの交代かなって思って、ル
リ子に言った。

「ありがとう」

 ルリ子は、舵を離して、隆と代わった。


 船首の部屋から洋子も起きてきた。

 隆と舵を交代したルリ子は、パイロットハ
ウスのサロンに腰かけて、テーブルの上のポ
テトチップに手を伸ばした。

「お腹空いただろう?麻美のこと、起こして
朝ごはん作らせようか」

 ポテトチップを食べているルリ子を見て、
隆は聞いた。

「大丈夫。麻美さんって、今日はなんか疲れ
ていたみたいだし」
「っていうか、今朝の朝ごはんは、私が作る
よ」

 洋子がギャレーの前に立って、言った。

「そうか。洋子って料理できるのか?」

 隆に聞かれて、洋子は、無言で頷きながら
苦笑していた。


 洋子は、家でも料理は、いつもお母さん任
せで、あまりしたことが無かった。

第85回につづく