フィッシャー32

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第138回

 今回の横浜マリーナのイベントには、珍し
いヨットが参加していた。

 横浜マリーナには、全部で100艇以上の
ヨット、ボートが係留、保管されている。
 マリーナとしては、かなりのヨット、ボー
トが在る大きなマリーナの方だろう。

 これだけのヨット、ボートが保管されてい
るのだが、その保管されているヨット、ボー
トのうち、実際にいつも出航しているヨット
ボートの数となると、あまり無い。

 殆どのヨット、ボートは、マリーナ内に保
管されているだけで、出航しているところな
ど、めったに見たことが無いのが実情だ。

 せっかく頑張って、自分のヨット、ボート
を持てたというのに、もったいないことだが
仕事が忙しいとか所有者それぞれにも理由が


あるのだろう。

「あれ、フィッシャーのヨットじゃない」

 隆は、三崎港内を皆と散歩していて、停泊
しているヨットの姿に気づいた。
 そのヨットは、イギリス製のモーターセー
ラーで、横浜マリーナの艇庫に保管されてい
るヨットだった。

「隆ってさ、なんとなくこんな形したヨット
が好きだね」

 麻美が答えた。

 隆は、横浜マリーナに保管されているとき
も、いつも横を通るたびに、その姿が気にな
っているヨットだった。

 気になっていたのだったが、いつ横浜マリ
ーナに行っても、オーナーが誰も来ていなく
て、乗せてもらうことも、船内を見学させて
もらうこともできなかったのだった。

「スタイルがカッコいいだろう」


「そうね、なんか窓枠が逆台形の形をしてい
て、漁船みたいよね。私は、ラッコのほうが
好きだな」

 麻美は、隆に答えた。

 麻美は、けっこうラッコ、ナウティキャッ
ト33の艇を気に入っている、もしかしたら
隆以上に気に入っているかもしれなかった。

「さあ、買い物に行こう」

 麻美は、まだ、その場に残って、オーナー
に挨拶をして、船内を見学させてもらいたそ
うにしていた隆を誘って、港内のショッピン
グスクエアに向かった。

「トロまん、食べよう」

 ヨットの艇種よりも、食い気のルリ子がシ
ョッピングスクエアの中に入ると言った。
 皆は、トロまんを作っているお店の前の椅
子に腰かけると、買ったばかりのトロまんを
つまんでいた。


「美味しい!」

 さっきまで、フィッシャーのヨットが気に
なっていた隆も、トロまんの味にすっかりヨ
ットのことは、忘れて、トロまんにかぶりつ
いているのだった。

第139回につづく