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フィギャアヘッド

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横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第12回

 麻美は、船の前方に回り込んでみた。

 隆のヨット、ナウティキャットの船体前方
から飛び出している角を、もっと良く眺めて
みたかったのだ。
 船体最前部から飛び出している角、バウス
ピリットは木部で出来ている。

 その木部の中央、床部分に穴が開いており
そこにアンカーが備わっている。
 停泊時に、そこから海面に向かって、アン
カーが落とされるのだ。
 その木部の周りにも、船体デッキ上と同様
に、人が落水しないようにロープが張られて
いる。
 バウスピリット先端からマストてっぺんに
向かって、ワイヤが張られており、ジブセイ
ル(ヨット最前部に張るセイル)が張れるよ
うになっている。


 この船には、ジブファーラーという装置が
付いていて、普段は、ジブセイルは先端のワ
イヤ部分にグルグルと巻きついている。
 セイリング時には、この巻きついているジ
ブセイルを開いて、広げることでセイリング
できるようになっているのだ。

 しかし、ヨットなど乗ったことのない麻美
には、ジブファーラーも、アンカー装置も、
まったく興味が持てなかった。

 それよりも気になったのが、船体最前部か

ら飛び出したバウスピリット、その飛び出し
た木部を落ちないよう支えるために、バウス
ピリットの先端下部と船体前部の少し下との
間を、斜めにステンレスのパイプが付いてい
たのだが。そのパイプに木でできた彫刻が付
いていた。
 ちょうど、昔の帆船の先端によく付いてい
る両手を広げた女性像のようなものが付いて
いたのだ。

「何か付いているよ」
「そうだよ。航海の安全を祈って女神像が付


いているんだよ」

 女神と隆は答えていたが、その彫刻は、ど
う見ても女神像ではなかった。
 何か犬のような動物の像だった。

「ラッコだよ」

 それは、隆の説明によると、ラッコの像ら
しかった。そう言われてみると、その動物の
像はお腹に貝を抱えていた。

「ね、ラッコってさ」
「うん」
「もしかしてだけど、私と一緒に行ったモン
トレーマリーナ、あそこにいた野生のラッコ
をイメージしている?」

 麻美は、隆に聞いた。

「正解です!」

 隆は、麻美が自分のイメージしたフィギャ
アヘッドに気づいてくれたことに嬉しそうに


頷いていた。

 ナウティキャットのヨットは、さすが森林
が豊富なフィンランド製だけあって、贅沢に
も各パーツに木部がふんだんに使用され、昔
の帆船の面影があった。
 その面影から、隆はぜったいにヨットの先
端にはフィギャアヘッドを取りつけようと思
っていたのだった。

 このヨットの船名は「ラッコ」にした。

 麻美と訪れたモントレーの街に、いつかこ
の船で行ってみたいという隆の願望を込めた
ものだった。船名がラッコなので、どうせな
らフィギャアヘッドもラッコの彫刻にしたの
だった。

第13回につづく


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