クルージング最後の日

横浜マリーナ会員の斎藤智氏が執筆した大人のためのクルージングヨット教室を題材にしたマリン、セイリングクルーザー小説。

クルージング教室物語

第44回

 ラッコは、横浜に向けて、千葉の保田港を
出航した。
 同じ横浜マリーナに置いているマリオネッ
トも一緒に同時の出航だ。

 千葉の港を出ると、目の前の対岸に観音崎
の白い灯台が見えている。
 まずは、その灯台のある向こう岸を目指し

て、大きなタンカーや貨物船が横切っている
東京湾を横断していなければならない。

「左から大型のタンカーが来ます!」
「右から貨物船がやって来ます」

 ラッコの乗員は、帰りもタンカーにぶつか
らないようにウォッチに集中している。

 苦労して東京湾を渡り終えると、

 あとは観音崎の灯台の脇を通り過ぎたら、


横浜港へ向けて北上していくだけだ。

 今日は海の日の連休だから、夏の日も高く
風は微風で、モーターセーラーのラッコは機
帆走でのんびり走っていられるが、秋の連休
を利用して、千葉まで遊びに行った帰りのセ
イリングなんかだと、北の風、真向かいから
の冷たい風に当たりながら進むので、けっこ
う帰りはハードだ。

 その点、夏のクルージングは、風もなく、
波もなく、穏やかだった。

 朝ごはんをしっかり食べてお腹いっぱいの
ルリ子などは、短パンに着替えてフォアデッ
キで大の字になって昼寝していた。

「私も、昨夜遅かったから、ルリちゃんの横
に行って昼寝してこようかな」

 麻美も、バスタオルと枕持参で、フォアデ
ッキのルリ子の横に行って、一緒に寝転がっ
た。

「私も横で昼寝させてね」


「どうぞ、どうぞ」

 さすがに30代の麻美は、20代のルリ子
のように短パンで寝転がるというわけにはい
かないらしく、デッキに寝転がると、日焼け
止めをたっぷりと顔や腕に塗ってから、枕に
タオルでしっかり体をカバーしてから昼寝し
ていた。

 麻美は、いつの間にか、ぐっすり眠ってし
まっていたらしい。

 クレーンの動く大きなモーター音で目を覚
ました。
 ラッコは海面から持ち上がって、空中高く
に浮かんでいた。

 眠っている間に、ラッコは横浜マリーナに
到着してしまっていたらしい。
 ラッコは、横浜マリーナでは上架、艇庫内
保管のため、帰って来るとクレーンで持ち上
げられて、艇庫に納められる。

 クレーンで持ち上げられるときには、普通


乗員は、その前に船から降りるのだが、眠っ
ていた麻美は、そのまま船の上に取り残され
てしまっていたらしい。

「ちょっと起こしてくれれば良かったのに」

 クレーンで持ち上げられたラッコが、自船
の艇庫内に収まってから、船に脚立をかけて
皆が船に戻って来た。
 麻美は、隆に文句を言った。

「だって、あんまりにも気持ち良さそうに寝

ているから、起こすのが可哀そうになってし
まってさ」

 隆は、麻美に嘘ぶいていた。

 船の後片付けをして、船内の掃除をしてか
ら、各自のバッグを持って、船を降りて、家
に帰る準備をした。

「もうクルージング終わりなんだね」
「もっと、どこか遠くに行きたいな」


 ラッコのクルーたちにとっては、初めての
クルージングだったが、すっかり気に入って
しまったらしく、皆、もっとクルージングを
続けたがっていた。

「でも、あと二週間したら、お盆にもっと長
くクルージングに行けるよ」
「そうだよね」
「それでは、夏の楽しいクルージングまでは
我慢して、明日からは、会社でのお仕事を頑
張りますか」

 ラッコの皆は、ヨットを片付け終わると、
横浜マリーナを後にして、それぞれの家路に
ついたのだった。

第45回につづく