大きい犬

日本の商社のニューヨーク支店に勤める隆が、妹のゆみとニューヨークで暮らす二人暮らしのハートフルホームコメディ。

 中華料理店を出ると、目の前の交差点を斜
め右に渡り、道を左折した。
 そこの通り上にある小さなアパートメント
に、三人は入った。入ってすぐのところの玄
関にエレベータがあった。
 良明が、エレベータのボタンを押す。ゆみ
たちの住んでいるアパートメントと違い、階
数もそんなにないので、ボタンを押すとエレ
ベータは、すぐにやって来た。
 三人がエレベータに乗ると、扉が閉まって
上階に上がり始めた。
 到着すると、エレベータの扉が開く。エレ

ベータホールの左と右に、それぞれの部屋へ
のドア、入り口があった。
 すぐ目の前は、階段になっており、階段で
も、上や下の階に移動できるようになってい
た。良明が、エレベータを降りて、右側のド
アのベルを鳴らす。

「よくアパートメントの部屋の位置まで、ち
ゃんと覚えているわね」

 ゆりこ先生は、感心した。


 部屋のベルが鳴ると、中から大きな犬の吠
える声が響いてきた。

「犬の声がする」

 ゆみは、部屋の中から聞こえてくる犬の鳴
き声を聞いて、先生に言った。

「大きな犬だから、ゆみちゃんも、きっとび
っくりするわよ」

 ゆりこ先生は、言った。

「あたし、うちにもメロディがいるし、犬は
大丈夫よ」

 ゆみは、答えた。

「はーい」

 部屋の中から、犬の鳴き声に混じって、人
間の女性の声がして目の前のドアが開いた。
 ドアが開くと、部屋の中から、大きな犬が
3匹勢いよく飛び出してきた。
 3匹の犬とも皆、ゆみの身長よりも遥かに


大きな犬だった。そんな大きな犬が、突然3
匹も部屋の中から飛び出してきたのだ。
 犬たちは、ゆりこ先生とは、もうすっかり
顔馴染みのようで、べつに普通にしていた。
 良明とも、この間、出会ったばかりで匂い
を覚えているせいか割と普通だった。
 そして、犬たちは、初めて出会うゆみの姿
に気づいた。今までに、自分たちが会ったこ
とのない女の子だった。
 犬たちは、その初めて見る女の子に、興味
深々と飛びついてきた。

 びっくりしたのは、ゆみだった。

 なにしろ自分よりも、はるかに身長のある
大きな犬が、こちらに飛びついてきたのだ。
 しかも3匹揃ってである。犬好きだったは
ずのゆみだが、さすがにびっくりして、横の
階段を上がって逃げ出してしまった。
 犬たちは、逃げたゆみを見て、一緒に追い
かけっこして遊んでいるのかと思ったみたい
で、犬たちも、階段を駆け上がってきた。
 ゆみは、上の階への階段の途中の踊り場で
すぐに犬たちに追いつかれて、そこにしゃが


み込んでしまっていた。
 犬たちは、しゃがみ込んだゆみの背中に、
前足を乗せて、においを嗅ぎまわった。
 ゆみは、3匹の大きな犬に取り囲まれて、
事情徴収されている。
 しゃがみ込んだゆみは、さすがに恐くて、
その場で泣き出してしまった。

「ゆみちゃん、大丈夫?」

 ゆりこ先生も、後ろから追いかけてきて、
声をかけた。

「ゆみちゃん、大丈夫?」

 後ろから、階段を追いかけて上がってきた
ゆりこ先生だったが、ゆみの周りを、大きな
犬が3匹も取り囲んでいるので、どうしよう
も無かった。
 ゆりこ先生は、真ん中のゆみのいる所まで
は、辿り着けなかった。
 良明も、後ろからついて上がってきたのだ
が、真ん中で囲まれているゆみのことなど、
ぜんぜんお構いなしで、ただ犬の尻尾を撫で
ているだけだった。


 皆の後ろから、一人のおばさんが、階段を
上がってきた。
 玄関で、部屋の中から犬の鳴き声に混じっ
て、「はーい」と話していたおばさんのよう
だった。このおばさんが、この3匹の大きな
犬の飼い主のようだ。

「ほら、ハウス!」

 おばさんが、犬たちに、大声で声をかける
と、犬たちは、素直に部屋の中に戻っていっ
た。3匹の大きな犬が立ち去った後、犬たち

のいた場所からしゃがみ込んで泣いている小
さなゆみの姿が現れた。

「ゆみちゃん、大丈夫?」

 ゆりこ先生は、しゃがんでいるゆみのとこ
ろにやって来た。
 ゆみは、泣きながら先生の腕の中にしがみ
ついてしまった。ゆりこ先生は、ゆみのこと
を、そっと抱き上げ、部屋まで連れて行って
くれた。


「大丈夫?」

 ゆりこ先生は、リビングのソファで、ゆみ
のことを膝に乗せながら座っている。
 先生は、膝の上のゆみの顔を覗き込んで聞
いた。ゆみは、だいぶ落ち着いて涙を手で拭
きながら頷いた。

「良明君のお友達っていうから、男の子が来
るのかと思っていたわ。まさかこんな可愛ら
しい小さな女の子がいらしゃるとは、思って
いなかったわ」

 犬の飼い主のおばさんは、犬たちをゆみの
側に行かないようにしながら、ゆりこ先生に
言った。

「わたしも、はじめは誰か男の子の友達を、
誘ってくるつもりだったんだけどね」

 ゆりこ先生は答えた。

「兄に笑われた」につづく